新たな家族

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 琴子がこの世界にやって来て、アイと暮らすようになってから数ヶ月が過ぎた。

 その間にアイは随分成長した。背は伸びてはいないが、痩せ細っていた頃に比べれば健康的な体つきになり、何より外見以上に中身が大きく変わっていた。

 アイは、ユーグが持ってきた本を片っ端から読んだ。

 人間の国の歴史書や地理の本、民俗学について書かれたものや医学、生物学、それから魔法書など。仮に琴子がこの国の文字を読めたとしても決して内容までは理解しきれないだろう難しい本を、アイは次から次へと読破して、自分の知識に変えていった。


 さらに、はじめの頃こそ家にいることが多かったものの、最近では琴子が食べ物を取りに行ったり料理をしたりしている間に、ひとりで森の中を探索しているようだった。

 ユーグから聞いた話では、森の他の魔物とも交流があり、よく遊んでいるらしい。 

 最初にそれを聞いたとき、琴子は仰天してしまったが、森の魔物たちがアイに危害を加えることはなく――ありえないことだ、とユーグは言っていた――またアイ自身も構ってもらえることが楽しいようなので、とりあえずは様子を見ることにしたのだった。


 アイはとても頭がよく、好奇心旺盛で色々なものに興味を持つ。

 そしてそこから実に多くのことを吸収して、もっとたくさんのことを知りたがった。

 どんどん心が豊かになっていくのが目に見えてわかった。よく笑って時々は泣いた。アイがそういった感情を素直に見せてくれると、琴子は無性に嬉しくなった。

 ただ、アイの心が豊かに育っていくのを喜ぶ一方で、気になることもある。

 アイはどうにも優しすぎるところがあり、自分のことを一番には考えないのだ。


「コトコのために」「コトコがするなら」「コトコがいいなら」


 いつもそうして琴子を優先する。

 微笑ましくはあるが、もう少しわがままを言ってくれてもいいのにと、琴子は思う。

 本当のところ、アイはどう思っているのだろう。

 琴子はアイのおかげで概ね楽しい日々を送っているが、アイはどうなのだろうか。

 疑問が過ぎりはしても、本人には訊けないまま、アイの笑顔に癒され、琴子は毎日を生きている。

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