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「シギ。イスカ」


 王がふたりの名を呼んだ。ふたりは揃って向き直り、王の言葉を待った。

 すでに一度失敗をしている。我々が立ち向かうのはそれほどの脅威であるのだ。

 だからこそ、ふたたび立ち上がり挑む。この世に安寧をもたらすため。守るべき、大切なもののために。


「長い、長い間、遥か昔の祖先から、我々は常に魔物の脅威に脅かされ生きてきた。勇気を持ち、立ち向かう者も数多くいただろう。現に我が王国騎士団も、魔導士団も、これまでに多くの魔物の討伐に成功してきた。だがそのたびに、傷つき命を落とす者が多くいたことも事実。そしていまだかつて我々人は、一度も“最大の脅威”に勝利したことはないのだ」


 王がふたりを見据える視線は優しい。優しく、揺るぎない。覚悟の証がその固さにはある。


「だが、今、私は得ている。この世の恐ろしい魔を駆逐する力と、それに真っ直ぐに立ち向かう勇気を。私はもう、民が傷つき悲しむ姿を見たくはない。この国に生きる民たちが、平和に明日を生きられるようにしたいのだ。不可能だとは思わない。必ず成し遂げられるだろう。すべての天は、きっと我々に味方する。だから、おまえたち……」


 王は束の間目を閉じた。だがすぐに開かれる。

 ほんのわずかの沈黙のあとで、王はふたたびふたりを見た。


「そのために、私に力を貸してくれ」


 その問いに返す答えは、とうの昔に決まっている。


「仰せのままに、我が王よ」


 シギとイスカは王に向かい敬礼の姿勢をとった。

 王が頷く。

 地下室の明かりが、わずかに震えて影を揺らした。


「イスカ・シュレン首席魔導士。魔導士団は魔法の発動に必要な人員の他に、戦える者は騎士団と共に道中と封印時の守りの役を務めてもらう。一部はここに残り遠隔魔法の操作をする者も必要だろう。部隊の編成は一任する。指揮は、イスカ、おまえが執れ」

「ただちに手配いたします」

「シギ・タルガ騎士団長は、ただちに各地の守りに散っている全騎士団員へ<深夜の森>への遠征の通達を。騎士団の戦力はすべて魔王討伐へ向かわせる」

「仰せのままに」

「頼むぞ、ふたりとも。今度こそ勝つのだ。人の持ちうる知識と技術、そして正義と勇気を駆使し、なんとしても我々に真の平和と安寧を」


 王が見えないはずの空を仰いだ。

 地下のここだ、空とは縁遠い場所であるのに、その目にはまるで遥かな天空が透けて見えているかのようだった。

 王は少し息を吸った。覚悟を決める、仕草にも思えた。


「出立は、三日後だ」

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