-7-
深い静かな海の底のような瞳だ。
だがその奥には、常に熱情が燃え盛っている。
シギとイスカにはそれが見えていた。それがわかるのだ。だからこそ、王の考えも、まるで自分のもののように胸の中に響く。
王が何を望み、どこを見ているのか。この方の心根に深く燃え続けるその炎が、何の為に、燃えているのか。
いつから、それに憧れた? いつから追いつきたいと思った?
その目に、その思いに、心を奪われて。いつか共に同じ場所を見て同じ思いを持ちたいと思った。
(もうひとりの幼馴染のように、貴方を支えられる特別な才はないけれど)
(もうひとりの幼馴染のように、貴方に背を任せられる強さはないけれど)
――それでも貴方の隣に立ち、貴方の役に立ちたいと。そう願った。
だから強くなった。そのために、剣を取り、そのために、知識を得た。
王の望みを叶えるためのひとかけらになれるように。王と共にこの国を千年先も栄える国にできるように。王をどんな困難からも守り抜けるように。
そのそばで、この日を待ち続けたのだ。
(ただひとりの、我が王よ)
「このおれがいる。そしてイスカ、おまえがいる。必ず守るさ。だから心配などひとつもない」
シギは右の拳を一度くちびるにあて、それから左胸の上へと移した。
それは心からの敬愛と忠誠を誓う仕草だった。シギがこの仕草を人に向けるのは、今は亡き誇り高き武人であった父と、この碧眼の王にのみである。
「シンレイ王陛下、貴方のことは、このシギ・タルガが、イシュガン王国騎士団の名にかけて……命をかけ、お守りいたします」
目の前に立つ王の視線は、じっとシギを見据えていた。
「ああ、頼む」
と、王は低く落ち着いた声音で言った。
シギは力強く頷いて見せる。笑みが深く零れるのを止めることはできなかった。勢いよくイスカを振り返ると、イスカはまるで鉛でも詰まっているかのように重たげに頭を振っていた。
「……こうなるとは、わかっていたんだが」
「なあイスカ、おれはもちろんおまえのことも守るよ。そのための騎士団だからな」
「まったく、シギは陛下に甘く、陛下はシギに甘いんだ。昔からそうだ。本当に、困ったものだ」
「何を言ってる。陛下はイスカにこそ甘いんだよ。おまえは甘やかされ慣れているからそれに気づいてないだけだ。おまけにおまえも相当甘いぞ」
「はあ? おれがなんだって」
「喧嘩はよせ。結局どちらも私に甘いのだ」
揃って王を振り向いた。王は少々呆れ顔で、だが、心底楽しげでもある。
「私はいつだっておまえたちに助けられてばかりだ。王だなどと偉ぶってはいても自分でできることなどほとんどない。おまえたちの力があるからこそ、私は王でいられるのだ」
「そのようなこと……我々の力など陛下のそれに比べれば微小なもの」
「だから、おまえたちは私に甘いと言っている」
王が堪えきれずに歯を見せて笑うと、シギとイスカは顔を見合わせ、どちらともなく苦笑を零した。
敵わない、と思う。王が、誰に認められるまでもなく才覚に優れた人物であることは間違いない。この方は人の上に立つために生まれてきた人間だ。従者としての贔屓目などなしに、他の者とは違うとわかる。
だがそれだけではないからこそ惹きつけられる魅力がある。
王は、他の者とは違うが、決して自らと他との間に溝も壁も作らない。
高みから、常に手を差し伸べ、眩しいほどの輝きで我々の行く道を照らし続けてくれるのだ。
それはまるで、太陽のように。
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