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「飛べぇえぇ……」


 ユーグを呼び出した琴子は、目の前に置いたりんごに右の人差し指を向けた。するとりんごは、触れられていないにも関わらず、小刻みに震えながら宙に浮かんだ。

 琴子は瞬きをすることなく赤い実を見つめ、りんごに向けた指先を右へとずらす。

 すると、それに呼応するように浮かんだりんごもふらふらと移動し、やがて歪な弧を描きながら少し遠くへ落下した。

 一部が凹んだりんごが、ごろりと地面を転がる。


「み、見た? 今の見た? ねえ、見たよね!」


 琴子は、自分の放った浮遊魔法を見ていた魔法の師匠を、満面の笑みで振り返った。


「わたしの魔法!」

「ああ見たとも。<天>の魔力を持ちながら、浮遊魔法で、なんという出来だ」

「ほ、本当に飛んだよ! 嘘でしょ、ちょっと、わたしすごいかも!」


 あまりに不安定な魔法に呆れるユーグとは逆に、琴子は自分の放った魔法に興奮を隠しきれないでいた。

 火を出すことも、自分が空を飛ぶことも結局できないままだが、小さな物であればこうして飛ばすことができるようになったのだ。

 手を触れずに物を飛ばすなど、もとの世界では考えられないことだった。

 十中八九どころか十回中一回程度の発動率しかないが、それでもやはり、琴子にとっては嬉しいことであった。


「頑張った甲斐があったよ! わたしにも本当に使えたんだあ! 魔法!」

「……まあ、コトコがいいならいいのだが」

「いい! よすぎる!」


 ユーグいわく、これではとても魔法とは呼べないらしいが。

 琴子にとってはこの力は、自信を持って魔法と言えるのだった。

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