-10-
「飛べぇえぇ……」
ユーグを呼び出した琴子は、目の前に置いたりんごに右の人差し指を向けた。するとりんごは、触れられていないにも関わらず、小刻みに震えながら宙に浮かんだ。
琴子は瞬きをすることなく赤い実を見つめ、りんごに向けた指先を右へとずらす。
すると、それに呼応するように浮かんだりんごもふらふらと移動し、やがて歪な弧を描きながら少し遠くへ落下した。
一部が凹んだりんごが、ごろりと地面を転がる。
「み、見た? 今の見た? ねえ、見たよね!」
琴子は、自分の放った浮遊魔法を見ていた魔法の師匠を、満面の笑みで振り返った。
「わたしの魔法!」
「ああ見たとも。<天>の魔力を持ちながら、浮遊魔法で、なんという出来だ」
「ほ、本当に飛んだよ! 嘘でしょ、ちょっと、わたしすごいかも!」
あまりに不安定な魔法に呆れるユーグとは逆に、琴子は自分の放った魔法に興奮を隠しきれないでいた。
火を出すことも、自分が空を飛ぶことも結局できないままだが、小さな物であればこうして飛ばすことができるようになったのだ。
手を触れずに物を飛ばすなど、もとの世界では考えられないことだった。
十中八九どころか十回中一回程度の発動率しかないが、それでもやはり、琴子にとっては嬉しいことであった。
「頑張った甲斐があったよ! わたしにも本当に使えたんだあ! 魔法!」
「……まあ、コトコがいいならいいのだが」
「いい! よすぎる!」
ユーグいわく、これではとても魔法とは呼べないらしいが。
琴子にとってはこの力は、自信を持って魔法と言えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます