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 ◇


 新たにわかったことがある。

 琴子には、魔法の才能が恐ろしいほどないということだ。


 ユーグから魔法を教わることにしたのはいいが、琴子はどれだけ頑張っても初歩的な魔法すら発動させることができなかった。

 それも当然かもしれない。何せ琴子はこれまで、魔法など物語の中にしか存在しない世界に生きてきたのだ。自分に魔力が溢れていると言われてもその実感などないし、魔力を指先に集中させろ、と言われたところで一体何をどうやって集中させたらいいのかさっぱりわからない。


「なんか、呪文的なの唱えるべきでは? それがないから駄目なのでは?」

「高度で複雑な魔法であれば言霊を詠唱することで精度を上げることができる。だが単純な魔法にいちいちそんなもの必要ない。せいぜい、火よ灯れ、や、浮け、くらいで十分だ」

「あ、そう」


 がっくりうな垂れながら、琴子は見下ろした右手に向かい「火よ灯れ」と呟いた。火の粉ひとつ出ることなく、琴子は一層うな垂れた。

 そんな琴子の様子を見て、ユーグはない首を何度も傾げた。


「おかしい。魔力はこれほどにあるのに。おかしい。どうして簡単な魔法すら扱えんのだ」


 ユーグがそう呟くたび、琴子は「知るか」と心で叫んだり、実際に口にしたりした。

 十日間やって進歩しなかったところで、琴子は魔法を習得することを諦めた。いや、琴子よりも、むしろユーグが教えるのを諦めた。


「ぬしに魔法は向いておらん。人魚の鱗で尻を拭く、だ」

「人魚? 尻? 何それ」

「優れた価値あるものがそばにあっても気づかない、発揮できない、という意味の言葉だ」

「ああ、宝の持ち腐れってことね。もしくは猫に小判、豚に真珠」


 ユーグを呼ばなくても石窯を使えたり、労せず魚を獲れたりするという琴子の夢の魔法生活は、まさに夢に終わった。

 まあこれまでの生活が続くだけだからいいか、と琴子はそれほど残念に思うこともなく、特訓の終了を受け入れたのだが。

 それでも暇なときにひとりでこっそり練習を続けた結果、唯一、できるようになったことがあった。

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