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「わたしも、アイが好きだよ。アイの全部が好き」
「……ほんと?」
「うん、本当」
頭を撫でてやると、アイは琴子から身を離した。しゃがんで目線を合わせる。
アイの瞳の色は、まだ鮮やかな黄色だ。髪の色と同じ真っ白な睫毛の下から、じっと琴子だけを見ている。
「……じゃあ、コトコ」
「うん?」
「コトコ、ずっとアイといっしょにいてくれる?」
アイが言った。
琴子は束の間きょとんとして、それから小さく息を吐いて笑う。
「もちろんだよ。わたしはアイとずっと一緒にいる」
「ほんとに? どこかに行ったりしない?」
「しないよ。わたしが自分の家に帰るときも、アイも一緒に連れて行く。アイをひとりにはしないよ」
「……ぜったい? やくそくしてくれる?」
アイの愛情は真っ直ぐだ。心の内を隠さずに、余計なものも見ずに、自分の素直な気持ちだけをぶつけてくる。
(わたしはどうしたっていろいろ考えてしまうけど)
だからこそ、アイの前では、考えなければいけない難しいことを抜きにして、正直でいなければいけないと思う。
「約束するよ。わたしはずっと、アイのそばにいる」
小さな約束だった。
そう、琴子にとっては、小さな約束だった。
もちろん破る気も忘れる気もない。だが決意と呼ぶには未来が曖昧過ぎる。
どうしたらふたりで帰れるのかも、アイを連れ帰ったあとにどうするかもわからない。
ただ、どうにかなるだろうと思っていた。この気持ちさえ、捨てずに持ち続けていられれば。
だから今は前向きに生きよう。
この子が小さな勇気を灯してくれる限り、希望を持っていられる。この世界で生きていける。約束も、きっと果たせるだろう。
琴子は、そう思っていた。
このときふたりで交わした小さくささやかな約束が、アイにとって一体どんなものだったのか。琴子はまだ知ることはない。
このときのアイの心を琴子が知ることになるのは、まだ、ずっと、ずっと先のことだ。
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