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「イスカ。再度術を施すために、どれほどの時を有する?」
「半年……いえ、三月頂ければ、必ずより強固な魔法を完成させましょう」
「頼む。シギ、騎士たちを使って構わない。国境の警備を固め、魔物の襲来に備えよ」
「は。仰せのままに」
王が、頬にかかった長い髪を掻いた。碧眼を細めるその動作は、ここには無い何かを見ているようだった。
「イスカ、あの者はまだ森にいるだろうか」
「わかりません。万が一より東へ逃げられていれば手を焼くことにはなりますが……あの身では、仮に強い魔物がそばにいたとしても、森に留まることを選んでいるでしょう。森より東は知性のない凶悪な魔物も溢れておりますから、今は森の魔物の守護を受けるほかないはず。まだ<深夜の森>に潜んでいると仮定し、早急に捜索班を送りましょう」
「いや、今森に立ち入るのは危険だ。得体の知れない者が潜んでいる可能性もある、迂闊に近付くことはできない」
「しかし、野放しにすることになりますが」
「構わない。おまえの言うとおり、今の奴に力はないのだ。そればかりは何者にもどうにもできない。私も、奴は放っておいても森に留まり続けると見ている」
「では、しばらく様子を見るということでよろしいですか」
「ああ、よろしく頼む。魔導士団、騎士団共に協力し合い、この国を脅威から守るのだ」
「御意」
王は頷くと、イスカとシギに背を向け、窓から見える遠い景色を覗いた。眼下には都が栄え、その向こうには遥かな平原が広がっている。見えぬ場所までいくつもの町々がつくられ、星の数ほどの人間が生きている。
だが、さらに彼方には、魔物のはびこる広大な森が広がる。この国の国土よりも遥かに巨大な森だ。
あれが、この国に生きる民たちに、常に恐怖を与え続けているのだ。
失くさねば。必ず。たとえどれだけの時が掛かろうとも。
「今、共に生きる者たちと、そしてこれから先の未来に生きる者のために」
王の髪が、陽に当たり美しく輝いた。イスカとシギは眩しさに目を細めながら、自然と、敬服の姿勢を取った。
この親愛なる<太陽王>のもと、向かう先は、ただひとつ。
「ふたたび我らの手に、大きな勝利を」
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