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シギはその、国を守護する仲間の……古い友の横顔を押し黙り見つめていた。
シギは魔法のことには詳しくなかったが、イスカの――魔導士団の知恵と技術に関しては、仲間として認め信頼している。そしてイスカがどれだけ魔物に対する魔法の開発に心血を注いでいたのかも、あの魔法に、どれだけの自信を持っていたのかも知っていた。
それゆえに、今のイスカの苦痛は計り知れなかった。きっと、剣士である自分が戦いに負け無様に死ぬのと同じ苦しみを味わっているに違いない。
王を見遣る。やはり、歪みのない表情のままだった。
王は指を顎に当て、束の間、思案していた。
「魔力が弱まっていたわけではないのだな」
「はい。万が一少しでも効力が弱まれば、感知し補強を行う手筈でした。発動した魔法には、解かれるそのときまで、異変はありませんでした」
「まさに唐突に効力が失われた、と」
「そうです。前触れはございませんでした。対処をする暇もなく、完全に消えてしまったのです。まだ調査中ではありますが、今のところ魔法そのものに不備があったとも考えにくい」
「あの者が自ら封印を破った可能性は?」
「そればかりはあり得ません。あの者の魔力はまだ皆無。それに、万が一にもあの者の魔力が戻り自身で封印を破ることができていたならば……」
「すでにこの国を滅ぼしに来ている、か。確かにな。では、別の何者かが封印を破ったということになるが」
息を呑んだ。イスカとシギは目を見合わせ、そして、王の碧眼を見上げる。
「何者、か」
「魔法に不備がなかったのであれば、そういうことだろう」
「し、しかし陛下……魔導士団のあの魔法は、容易く破れるもではなかったのでは?」
黙り込むイスカに代わりシギが口を開く。
「それこそ魔王にだって破れないはずのものを、一体何者が? <深夜の森>には、そもそもそれほど大きな魔力を持つ魔物もおりませんし」
王がこくりと頷く。
「私は、魔導士団の技術に疑いは欠片もない。あの魔法は強大で強力。もちろん、あの魔法よりも強力な魔法を使いこなす者であれば、破ることも可能だろうが。だがシギの言うとおり、そんな者など存在しなかった。それなのに魔法が解けたのはなぜか。それは、破ることができるほどの強力な魔力を持った者が、あの森に唐突に現れた。可能性はなくはないはずだ」
シギは言葉を失くしていた。
現れた? あの魔法を容易く破ることができるほどの者が?
そんな者、魔王以外にどこにいるというのだ。
我が国が……いや、人類が誇るイシュガンの魔導士団が総力を結しあの魔法を作り出したのを、間近で見ていた。幾百年にも渡る研究の集大成だ。それなのに、その魔法を容易く無に帰すほどの力を持つ者が現れたとすれば……人に、未来はないではないか。
いるはずがない。そんなはずがない。
だが、王の視線の先にいるイスカを見て、まさかと思った。
イスカの俯いた顔が蒼白に変わっている。額には大粒の汗を掻いていた。
いつも澄ました顔をしている男だ。こんな表情は、見たことがない。
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