王宮にて Ⅰ
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ここは<深夜の森>のすぐそばに栄える王国、イシュガン。
国土はさして広くないが、実り豊かな平野をはじめとした自然の恩恵を受ける土地であり、多くの民が暮らす王国である。
頂点に君臨するのは、建国以来途切れぬ血筋のイシュガン王家だ。
有能な才覚に恵まれ、人々からの信頼の厚いまさに王たるべき一族と言えた。
そして、その王と王国を守護しているのが、強大なふたつの力――剣を手に戦う王国軍と、魔法を用いる王立魔導士団である。
このふたつの力と、民を束ねる王家の存在により、イシュガンは建国から幾百年、今も繁栄の一途を辿っていた。
だが、一見豊かで幸福に思えるこの国には、常にある脅威が付き纏っていた。
疫病でも飢饉でも他国からの襲撃でもない。魔物の存在である。
魔物は、形に個体差はあるが、多くが獣のような鋭い爪や牙を有した。身体の力は人を凌駕し、水を掻き卵を潰すように、肉を裂き、骨を砕いた。人の肉を好み喰らうものや、単に殺戮を好むものもいる。魔物は、人の幸福に害を為す、この世の闇が生んだ、悪しき異形の生き物であった。
イシュガン王国の周囲は、他の土地に比べ魔物の出没が多かった。ここより以東が魔物の多く棲む暗黒の土地であるからだ。
そのため王国に住まう人々は、常に魔物の恐怖に脅えていたのだった。
しかし、それでもイシュガンの民が屈することなく、この地に根付き生き続けたのは、これ以上、この大地に魔物をはびこらせないためである。
イシュガンが崩れれば、魔物の脅威はさらに広がり、いずれ人は滅ぼされる。それだけは阻止せねばならなかった。
イシュガン王国は、この世に生きるすべての人類のため、そして悪しき魔物を殲滅するため、日々戦い続けていた。
イシュガンの軍は、大陸屈指の強さを誇ると言われている。だが、並の魔物ならともかく、強い魔力を持つ魔物に対抗するためには、剣だけでは勝つことができない。
魔物の中には恐ろしく強大な魔力を持つものがいる。そのものらは人よりも遥かに強靭な肉体を持ちながら、さらに複雑な魔法までも使いこなした。
それらに対抗するためには、こちらも剣だけではなく、強い魔法で戦わなければいけない。
イシュガン王国では、どの国よりも高度な魔法の研究が行われていた。世界中から優秀な魔導士を集め、魔物に対抗できる術を開発、発展させた。
しかし魔力、魔法はいまだ解明されていないことが多く、世界一と謳われるイシュガン王立魔導士団の力をもってしても、魔物をすべて滅ぼすことができる魔法の開発は、思うようにはいかなかった。
そんな中、ある者が言った。果てのない広大な数の魔物を殲滅することを考えるより、最大の脅威を抑えるべきである、と。
そして今が、その好機である、とも。
人々は同意した。そして“最大の脅威を抑えるための魔法”の開発と強化のみに力を置き、研究を進め、やがてある魔法を生み出した。
好機を逃す前に、イシュガン王国はその魔法を行使した。
成功だった。
最大の脅威が失われた今、人々は、人類の大きな勝利に歓喜したのだった。
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