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「とりあえず、わたしはアイとこの森で生きていくしかなさそうだ」
「少なくとも<蒼穹の君>はしばらく森で匿う他ない。人はもちろんのこと、今の<蒼穹の君>は、森の外に蔓延る凶悪な魔物や知性のない魔物たちに狙われかねないからな」
「……この森の魔物たちには危険はないと?」
「当然だ。むしろ我らは<蒼穹の君>を守る。<蒼穹の君>を守ろうとする、コトコのことも」
「……ふうん。それは、ありがたいけど」
とは言え魔物の存在を恐れないわけにはいかない。だから「我以外の物たちもコトコの手足として好きに動かせ」と言われたことだけは全力で拒否した。
いくら襲わないと言われても、ユーグのような異形の生物が大勢現れれば、恐らく精神と心臓が持たない。
「とりあえず、遠くから見守っていてくれれば十分です」
「ふむ、そう伝えておこう」
しかし、どうしてアイを助けたことだけでこれほどまでに英雄視されるのだろうか。アイのことを<蒼穹の君>と呼ぶことについて、そして<蒼穹の君>とは何であるのか、その疑問を問いかけてみるが、
「<蒼穹の君>は<蒼穹の君>である。それ以上でも以下でもない、唯一の存在」
と見当違いの答えしか返ってこなかったから、もう訊くのはやめた。
思うに、アイの不思議な瞳が何か関係しているのではないか。そう琴子は答えを出した。
アイは恐らく、琴子と同じく――もちろん自覚はないが――魔力の強い人間であり、且つ、特別な力を秘めているのだと思う。
特別な力、が何であるのかはもちろん知らないが、その証が色の変わる瞳であり、そしてユーグたち魔物はその力を持った人間を<蒼穹の君>と呼んで崇めたり、逆に襲って力を得ようとしたりしているのだ。
人間たちは、その魔物を魅了する力を気味悪がり……もしくは恐れ、アイを人間の国から追い出すためにこの森に連れてきた。
もしかしたら、生け贄のような意味合いもあったかもしれない。
(……うん、きっとそうだ)
概ね合っている自信があった。なるほど、とひとり納得し、自分の考えに自分で頷く。
とにかくだ。
この森の魔物は人を襲わず、むしろ生きるために手を貸してくれるらしい。つまりここにさえいれば、当面の命の心配はない。そして今はアイを人のいるところへ連れて行くことはできない。それが現状はっきりしていることであった。
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