家を探して

-1-

 朝、目が覚めて、ああまた夢じゃなかったと溜め息を吐いた。

 けれど、これまではなかったはずのあたたかさに気づき、少しだけほっとする。

 何も変わっていないのに、昨日までとは違う朝を迎えた。今日はひとりではない。今日からはもう、ひとりではないのだ。


 誰かが隣にいることが、これほど特別なことだとは知りもしなかった。

 大きな木にもたれ掛かったまま、隣で眠っている子どもの顔を覗く。愛らしい寝顔に、無性に胸が締め付けられる。


「起きたか。コトコよ」


 ひび割れた声がしてびくりと体が跳ねた。

 顔を上げると、ぎょろりと丸く大きな目玉と目が合った。


「ああ……おはようユーグ」

「早くはない。すでに日が昇り随分と時が経っている」

「あ、はい。そうなんだ」


 緑色の毛を全身に生やした浮く球体、それでいて人の言葉を悠長に喋る人ではない生き物――この森に住む魔物であるらしいユーグは、昨日から何かと世話を焼いてくれている。

 琴子を、というよりは、アイを庇護しているようだが、ついででもいいから手を貸してくれることはとてもありがたかった。その不気味で不思議な存在にも、少しずつ慣れてきたところだ。


「食えるものを採ってきてやった。人は果実を食うだろう」

「あ、ありがとう。この森って、こんなにも果物が実ってたんだね。わたしは昨日までまったく見つけられなかったんだけど」

「封印のせいだ。封印の影響が森全体へと広がり、果実も泉も枯れ、魔物以外の生き物も姿を消していた。だがこれからは少しずつ戻って来るだろう」

「へえ、よくわかんないけど、よかったね」


 大きな葉を皿代わりにし、山盛りとなった果物が琴子の前に置かれた。

 果実は、見たことがあるものから、面妖な形の物まで様々揃っていた。

 相変わらず腹は減らないが、美味しいものを見れば食べたいと思い、食べれば素直に美味しいと思う。一番上に乗っていたりんごを手に取り、シャク、と音を立て丸齧りした。

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