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「アイっていうのはね、瞳の色から取ったんだ」

「ひとみ?」

「うん。まるで虹みたいに、いろんな色に変わるからね。虹の女神さまの名前は“アイリス”って言うらしいから、そこから名前を貰って“アイ”」


 小学生の頃、遠足でアイリスという花が咲く場所に行ったことがある。そのときに先生から教えてもらった知識だった。


「どう? 嫌なら他のを考えるけど」

「いやじゃ、ない。アイ」

「じゃあ決まりね。きみの名前はアイだよ。忘れないでね」


 小さな頭を撫でてやると、くすぐったげに下を向いた。

 顔を覗くと、瞳は黄色に変わっていた。

 どのような仕組みかは知らないが、恐らく感情と連動しているのだろうことには気づいている。黄色はなんの色だろうか。


(嬉しい色だといいな)


 いつもその色を、アイが浮かべていられるように。


「コトコ」

「ん?」

「ありが、とう。コトコ」


 ぎこちなく、小さな唇が微笑んだ。細い指が琴子の指を握っている。

 じわじわと湧き上がるのはなんだろう。初めて感じる感覚だった。

 まわりに人がいることが当たり前だった今までの日々。そして、突然孤独になった、長くて短いこの世界での日々。

 琴子は、このような思いを感じたことはなかった。

 なんだろう。この、泣きそうなくらいに、誰かが愛しい感覚は。


「こちらこそ、ありがとう」


 出会ってくれたことに、感謝していた。

 もう琴子はこの場所で、ひとりぼっちではないのだ。


 アイがいる。

 だから、これから一緒に生きていく。

 お互い、帰るべき場所に帰るまで。

 この森で、生きていく。

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