第22話

風と千歌は、湯船で心身ともにほぐされた後、ゆっくりと湯屋を後にした。温かな湯から上がった肌は、ひんやりとした夜風で心地よく冷やされ、二人はさっぱりとした気分を味わいながら、禅寺の庭へと足を踏み出した。


庭の入り口には、細く伸びた石畳が続いており、足元が静かに音を立てる。その音が、周囲の静けさを一層引き立てていた。庭には、手入れの行き届いた苔が広がり、白い石灯籠がぽつりぽつりと配置されている。夜の闇の中でも、月の光が淡くその庭を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


風が足元の苔を見つめながら、少し考えるように言った。「こうして歩くと、心が落ち着く。お風呂に入った後だから、余計に感じる。」


千歌は軽く頷きながら、庭の景色に目を奪われていた。「うん、すごく静か…。こういうところ、令和にはなかったかも…。」


二人は並んで歩きながら、時折、空を見上げたり、足元の草花に目を向けたりした。月光に照らされた池の水面は、ほとんど動かず、静かに波紋を広げるだけ。池の周りには、小さな石橋が架けられており、風がその上を歩くと、橋が小さくきしむ音がした。


「この橋、すごくきれい。」千歌が目を輝かせながら、足を止めて橋の上から池を見下ろした。水面には、庭の木々が映り、まるで時間がゆっくり流れているかのようだった。


風もその景色に見とれながら、「本当に…。」と静かに答えた。二人はその場に立ち止まり、しばらく何も言わずに景色を楽しんでいた。


その後、二人は池を囲む小道を歩き続けた。途中には、小さな紅葉が夜風に揺れ、音を立てずに舞い散っている。風と千歌は、足元の落ち葉を踏みながら、穏やかな時間を過ごした。


「江戸元禄に来て、よかった…。」千歌がしみじみとつぶやくと、風は、うん、と頷きながら答えた。「私も今、同じこと考えてた笑…。」


二人はそのまま、しばらく無言で歩き続け、夜の静けさに身を任せていた。禅寺の庭は、時を超えて二人を包み込んでいるような気がした。入浴後のさっぱりとした気分と相まって、その瞬間だけが特別なものに感じられた。


風と千歌は、再び禅寺の静けさに包まれながら、心地よい疲れとともに夜空を見上げた。どこまでも広がる星々が、二人の心をさらに静かなものにしていった。

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