第21話
風と千歌は住職の孫娘として、禅寺の生活を少しずつ知っていく日々の中で、初めてお風呂に入ることになった。住職の孫娘という特別な立場であるため、他の僧侶たちと同じ時間帯に入ることはないが、静かな時間を過ごせるように配慮されている。
風と千歌は、禅寺の裏手にある小さな湯屋へ向かう。湯屋の扉を開けると、木の香りがふわっと広がった。中は広くはないが、落ち着いた雰囲気が漂っている。壁は木材で囲まれ、天井には竹が使われている。湯船は黒い石で作られており、湯気が立ち上っている中で、温かいお湯が静かに流れている。
風は少し緊張しながらも、湯屋の空気に包まれて心が落ち着いていくのを感じた。千歌は興奮気味に目を輝かせながら、湯船の縁に手をかけてお湯の温かさを確かめる。
「うわぁ、こんなに温かいんだ!」千歌が顔をほころばせると、風も穏やかな表情で頷いた。
「うん、でも、ちょっと不安だな。こういうお風呂って、ちゃんと入るのが難しそう…」と風が言うと、千歌が笑って肩をすくめる。
「大丈夫だよ。見て、湯桶がちゃんと準備されてる。これで体を洗ったりするんだよね?」
そう言うと、千歌は湯桶を手に取り、少し恥ずかしそうに背中を洗い始めた。風も後に続き、二人は静かに体を洗い、湯船に浸かる準備を整えていく。
お湯に身を沈めると、湯船の中は意外にも温かく、体がほぐれていくのを感じた。風と千歌は互いに静かな時間を楽しんでいたが、外の音が耳に届くことはほとんどなく、ただお湯の音と心地よい静けさだけが広がっていた。
風はしばらく目を閉じて、湯船の縁に腰を預けながら、思わず心の中でつぶやいた。「こんな静かな場所で、お風呂に入れるなんて…。」
千歌もゆっくりとお湯に浸かりながら、心が落ち着いていくのを感じていた。元禄時代の禅寺の、簡素でありながら温かな空間に包まれ、心も体もリセットされていくようだった。
その時、千歌がふと顔を上げて言った。「ちょっと贅沢。」
「確かに、日常とは違う感じがする。」風も静かに答え、ゆっくりとお湯をかき混ぜる。二人は何も言わず、ただお湯の中でリラックスした時間を過ごした。
外の庭からは、蝉の鳴き声や風の音が微かに聞こえ、禅寺の静けさが二人を包み込んでいた。
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