第28話
風と千歌は、それぞれの仕事に忙しい日々を送っていた。風は、頼まれる外国の書物の翻訳が増え続け、勉強するべきこともどんどん増えていった。異なる言語の文法や文化的背景に触れるたびに、風は一層の知識欲を掻き立てられ、次から次へと新しい本を訳す日々。勉強は欠かせないため、なかなか休む暇も無かった。しかし、お金もどんどん増えていき、彼女の財布には普段は持ち歩かないほどの蓄えができるようになった。
一方で、千歌も洋服のデザインやイラスト制作に追われていた。彼女の絵柄が可愛いと評判になり、和紙に描いたキャラクターのイラストが売れ行き好調になる。キャラクターが評判になるにつれ、千歌はそのイラストを使った「キャラクタービジネス」も展開するようになった。元禄の人々にとって新鮮で愛らしいキャラクターたちは、お寺を訪れる参拝者たちにとって人気のお土産となり、どんどん新しいアイディアを生み出さねばならず、千歌も忙しい日々が続いた。
ある日の夕暮れ、住職が二人を呼び、静かに問いかけた。
「風さん、千歌さん。今の生活は楽しそうに見えるけど、この時代でずっと生きていく覚悟はできたかな?」
その質問に、二人は一瞬驚いた表情を浮かべた。この時代で日々の仕事や勉強に追われ、充実感も得ていたが、「この時代で生きる」という決意をはっきりとしたことは無かった。風と千歌は互いに目を合わせながら、少しだけ考え込むように沈黙が続いた。
風がゆっくりと口を開く。「確かに、今の生活は忙しいけど…充実してる。ここで役に立てている実感もあるし、毎日が学びだし楽しい。けれど、ずっとこの時代にいるって決めたわけじゃなくて、ただ今を頑張っているだけかも。」
千歌も続ける。「私もデザインやキャラクターをみんなに喜んでもらえるのは嬉しいし、こんなに楽しい仕事ができるとは思わなかった。でも、私たちの『時代』ってどこなんだろうって思うこともある…」
住職は二人の言葉を聞き、微笑んで頷いた。「今を楽しんでいることは、二人にとってとても大事なこと」
住職の言葉に、風と千歌は静かにうなずいた。この時代に留まるべきか、それとも自分たちの時代に帰るべきか、いつかは決断する時が来るのだと心に刻んだ。
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