第29話
風と千歌は、自分たちの仕事が元禄時代に新たな価値観をもたらしていることを感じ始めていた。風の翻訳仕事は、異国の知識をもたらし、人々に外国への興味を抱かせるきっかけを作って………。そして千歌のデザインやイラストは、新しい美意識を生み出し、特に女性たちの間で人気を博している。
二人は、この時代の人々、特に女性たちにとっての「自立」という考え方がいかに革新的で、同時に希望を与えるものであるかを実感していた。風は翻訳の仕事を通じて、一人の女性としての力を示し、千歌もまた、作品を通じて自己表現の重要性を示しているのだった。
しかし、夜が深まる頃になると、2人はふと遠くにいる家族のことを思い出し。両親や友人が待つ現代の生活もまた、心の片隅にあった。親のもとを離れて自立することに誇りを持ちながらも、いつか戻るべきだろうかと心が揺れる瞬間もある。
ある夜、2人はこの思いを住職に相談した。
「住職、私たちはここで成長している実感があります。でも、家族が待っている現代に戻るべきなのか、悩むこともあって…」と風が切り出した。
住職はしばらく沈黙した後、穏やかに答えた。「家族を思う気持ちは、どの時代でも大切なものだ。だが、君たちは自分の力でここに新しい風を吹き込んでいる。それは、この時代に生きる多くの人々に影響を与えているよ。」
住職の言葉に励まされた2人は、自分たちが元禄の時代にいる間にどれだけのことができるのか、どれだけの人々に新しい価値を伝えられるのかを考え始めた。特に風は、女性が自由に知識を追求し、自分の意見を持つことがこの時代ではまだ少ないことを理解していて。千歌も、デザインを通じて女性たちが自己表現する喜びを知ってほしいと思うようになって。
「もし、私たちがこの時代に留まって、女性がもっと自立できる可能性を示せたら、家族もそれを誇りに思ってくれるかもしれない。」と千歌がつぶやく。
「そうだね。この時代で私たちにできることを精一杯やってみる。それが、いつか家族に会えるときの贈り物になるかもしれない。」と風も微笑んで答えていた。
こうして、2人は元禄の時代でできる限りのことをやり遂げようと心に決め。現代に戻る日が来たとしても、ここで成し遂げた経験や影響が彼女たちの誇りとなり、家族に報告できるものとなると……。そして、住職もまた、彼女たちがどれだけの価値をこの時代にもたらすのかを楽しみに見守っているのだった。
しあわせは淡い/京町禅陽日寺橋の町娘の剣 紙の妖精さん @paperfairy
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