第26話

風が英語で外国の本を読めると知った齋藤緋之助の父親は、ある日お寺を訪れ、風に正式に翻訳を依頼した。父親は商人らしく、風が読んでいる本がただの娯楽ではなく「商売に役立つ」知識であることを直感的に理解していた。


「これは外国の書物じゃ。わしにはまるで読めんが、なんでも商いに役立つ話が載っておるらしい。おぬし、読んでみてくれんか?報酬も支払うでな。」


突然の本格的な依頼に驚きながらも、風は英語の本を受け取り、ひとまず簡単に内容を翻訳することにした。「お金を稼ぐ」というのは、令和の生活では当たり前だったことですが、元禄時代に来てからは初めての経験。風はその本をじっくり読み込み、内容を日本語に訳していった。


翻訳の報酬として手にしたお金を使い、風は自分の好みの雑貨や服を手に入れることにした。時代は違えど、かわいいものやおしゃれなアイテムには変わらない魅力を感じ。自分の稼ぎで少しずつ贅沢をする喜びを知り、風はさらに仕事を頑張ろうという気持ちが強くなった。


「お金を稼ぐってこういうことだったんだ…好きなものを買えるって、こんなに楽しいんだね!」風は、少し得意げな顔で小さな髪飾りや布地などを見つめた。


一方、千歌も時折、洋服のデザインを考えていた。令和で見慣れていた洋服のスタイルを元禄時代に合わせてアレンジし、和風の生地を使った「洋服風デザイン」を生み出す。そのデザインが周囲の人々の目を引き始め、千歌も自然とその服装やデザインを見せるたびに褒められるようになった。


「千歌ちゃん、その服、どこで手に入れたの?何やら見たこともない新しい形だねえ。」


千歌は誇らしげに言う。「これ、自分でデザインしたの!ちょっと洋風にしてみたけど、和のテイストも入れてみたんだよ。」


やがて、風の翻訳と千歌のデザインは、お寺や近隣の人々の間でも話題となり、「お寺に住む不思議な女の子たち」として認知されていった。商人たちは風に外国の本を持ち込むようになり、千歌のデザインは少しずつ流行を呼び起こす。風と千歌もまた、異文化に触れながら自分の価値を見出していくことに、充実感を覚え始めていた。


「この時代でも、私たちの力が役に立つなんてね!」千歌が誇らしげに言うと、風も笑顔でうなずいた。


風と千歌は、令和から持ち込んだ知識や感性で元禄の街を少しずつ変えていった。彼女たちの存在は、元禄の人々にとっては「新しい風」であり、また二人にとっても自分たちが異なる時代においても価値を持つ存在であると感じられる特別な時間となっていた。


ふと、風は心の中で思った。「この時代に来たことも無駄じゃなかったかも。私たち、ここでちゃんと生きてるんだ。」

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