第3話

「いってきまーす」

わたしはそう言って家を出た。

ひんやりとしたそよ風が,わたしの頬にあたる。

白い粉が,わたしの手のひらに舞い降りた。

「もうりんのじきか…」   ※りんとは,この世界でいう冬のこと。

そう呟いて,カーディガンの裾を首まで持ち上げた。


「おはよー」

学校のクラスの扉を開けて,小さな声で挨拶をする。

自分の席で支度をしていると,親友のレモンが話しかけてきた。

レモンは肩までのセミロングの女の子で,わたしと奏の幼馴染。昔はよく一緒に月を見にいったりしてたんだ。

その時は,レモンとわたし,奏と剣で一緒に。

この4人が,学校でもいっしょにおべんとうたべるグループなんだ!

レモンは手先が器用で,レモンの花の刺繍が入ったカチューシャがとっても可愛いの!

わたしのワンピースについている薔薇のコラージュも,レモンの手作りなんだ!

「あっ!レモンおはよう!」

「おはよっ!真美!」

「あれ?剣は?いつも一緒に登校してるんでしょ?」

「剣は,なんか奏と国王様に呼び出されたんだって。2人でなんかやらかしたのかな〜」

「どうだろ!あの2人ならやりそう!」

やっぱり,レモンと話すのはとっても楽しい!

いつもよりワクワクしちゃって,時間が早く感じられるの!

「レモーん!命令じゃんけんやろー!」

でも,レモンがクラスメイトの男子に呼ばれた。

「えっ?何それ?」

「説明するからこっち来いー」

「はーい。じゃあ真美。また話そうね!」

「あっ。う,うん!」

レモンはこの通り,クラスの男女ともに仲良く話せる。

変なあだ名がついたり,男子3人の班とかになっても楽しくお話しできるレベル。クラスではかなりの人気者なんだ。

それに比べてわたしは超の着くほど男子が苦手。

奏とか剣とかとしか話せないし,この前男子3人班の時,めちゃくちゃ辛かったもん!

「「命令じゃんけん じゃんけんぽい!」」

レモンがクラスの男子とじゃんけんしてる。

「…うわぁァァッっ!最悪!お前にだけは負けたくなかったのに!」

あっ。レモン負けたんだ。

「よっしゃァァァァつ!じゃあ,今から次の休み時間まで語尾,にゃんで!」

「嘘でしょーーーっ!!授業中もなの⁉︎」

「にゃんは?」

「うぅぅっ。にゃん…」

あはは。めっちゃ面白い。レモンって可愛いから,語尾ニャンはめっちゃ似合う。

「おっはよー!真美ちゃん!」

「真美ちゃん!おはよう!」

クラスメイトのここと愛香が歩いてきた。

ここはハーフアップの女の子。色白でおしゃれ。すっごくピアノが上手なの!

愛香は一つ結びの女の子。おしゃれだし,メイクもバッチリやってる。

この2人,最近わたしにめっちゃ話しかけてくるんだよね。

お弁当は断ってるんだけど…なんかずっとわたしにベッタリなんだよね…

「あっ!やば!わたし,しごと忘れてた!」

じゃあね!と愛香はクラスメイトで友達の,比奈ちゃんと一緒に教室を出ていった。

愛香がいなくて,ここと2人。ここはいきなり身を乗り出した。

「ねぇねぇ!真美!あれ,持ってきてくれた?」

「あれ…あぁっ!うん!持ってきたよ!」

わたしは引き出しから1枚の紙を取り出した。

「キャァァッ!やっぱ真美ってめっちゃ絵上手いね!この絵の里組りくみ先輩,めっっちゃかっこいい!」

昨日描いてきたのは,高等部の王子様・里組先輩だ。

「あれ?ここもファンになったの?」

愛香はすっごい情熱ファン。でも,ここってそういうタイプじゃないと思ってたけど…

「いやー実はね。昨日,実物見ちゃって,それがめっちゃかっこいいんだよ!わたしのハンカチ拾ってくれたの!なんで初等部に来てたのかな?」

なるほど。最近落ちたのね。

まぁ。わたしはそんなの興味ない。

「競争率高いのは知ってる。けど…」

ここはわたしの耳に顔を近づけた。

「叶わない恋っていうのも,かっこいいと思わない?」

女の子らしい,甘い息が耳にかかる。

その時−⁉︎

何かが…見えた…

目で…と言うよりかは頭の中で…

女の子が,別の女の子2人に抑えられてて,後ろにいた男の人が,女の子に何かを囁いて…

「真美!どうしたの?」

ハッと目を開くと目の前にはここ。

「な,何にもないよ。それよりもう朝の会始まっちゃう!ここ,自分の席戻らないと,また怒られちゃうよ?」

「そうだね。じゃあ真美!あとでね!」

そう言ってここに自分の席に戻ってもらう。

な,なんだったの?今の…女の子が抑えられてて,男の人に何かを言われてたよね?

わたしの首筋を,ツーっと冷や汗が垂れ落ちた。

それに,さっき,ちらっと廊下に里組先輩が見えたんだ。

すっごい,レモンのことをじっと見つめて…

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