コガは配信で得た貯蓄にあぐらをかき、ろくに就活をしていなかった。今日

のゼミは教授が風邪で休み。ゼミ生が有志で集まって勉強会をするとグループ

チャットで見たが、もちろん行かない。

　こうして平日の昼間から一人暮らしの安アパートにこもり、パソコンを開い

て動画配信ページのコメントを流し読みしている。もう昼を過ぎているが、十

時頃に好物の納豆卵ご飯を食べたばかりだ。

　生配信中はネタバレ防止のためにコメントを非表示にして、まったく見ない

ことを心がけているので、こうしてだらだらと過ごすのは密かな趣味であっ

た。

　彼は実況歴も三年を超すため、荒し目的のような負のコメント、批判につい

ては目を滑らせて見て見ぬふりをする。

　しかし、今日も気になる単語がちらりほらりと……。

『未天使くんはこのゲームに勝てるか？』

『コガのあとに未天使くんの配信見るのが毎日の楽しみ』

『コガ、プライドなのかしらんけど未天使くんについて何もコメントしない』

　コガは飲み終わったペットボトルを両手で押しつぶした。

「はあ？　なーん？　こいつらそろいもそろってコメで他の配信者の名前を出

すなって。マナーがなってないな！　誰だよ未天使くんって」

　だいたい「天使」などエンタメやネット界隈では、とうの昔に使い古された

名前だ。自分のＶデザインが悪魔モチーフなのを棚に上げ、小学生が考えたよ

うなハンドルネームだと未天使くんを胸中でわらった。幼い子の可能性はけっ

こうある。まあ気にしないけど。全然気にしてないけど一応、後学のためにど

んな模倣配信者がいるか見ておくか。

　コガはこの配信者「未天使くん」についてざっと検索をかけた。すると…

…。

　すぐに配信チャンネルがヒットする。

「まぐれ☆未天使くん」

　八十年代のラブコメマンガのような名前のチャンネルだ。登録者数は五万越

えで内心びびる。見れば、まだ開設して三ヶ月しか経っていないのだ。

　驚いた。

　ずらりと並んだ動画はどれもコガのゲーム配信を追いかける形で、まったく

同じゲームタイトルをプレイしていた。それも、コガと同じく「初見最速クリ

ア」を目指している。もちろん概要欄にはコガについては一切書いていない

が、こいつが先輩に恋い焦がれる女子中学生のごとくコガを意識しているのは

火を見るより明らかだ。