3 性別・天使

「うーん、微妙に僕よりは遅いけど、けっこういい線いってるか」

 配信時間の長さを見ると、今までひとつもコガの記録には勝っていないよう

だ。しかし、かなりプレイ時間が早いことは確かだ。

 それにしても、動画のサルネイムに上がっている「未天使くん」のVチュー

バーのキャラクターに見覚えがあった。それもそのはず、コガがデザインを頼

んだイラストレーターと同じ人に頼んでいるのだ。こちらは青年のすがたで、

「未天使くん」はふんわり羽根の生えた金髪少年だ。

 プロフィールによると、正式名称は「未天使」で、天使を目指して日々修行

している小学生。まだ天使ではないので未天使と名乗っているらしい。ファン

たちの間では、「未天使くん」と呼ばれている。

「性別・天使なので性別とかはないよ」とあったが、見た目は完全ショタであ

る。というか天使モチーフって、よく考えたらコガの悪魔イケメンに対抗して

るのか……。

 どこまで僕のことが嫌いなのか、いや好きなのか。

 コガは、少し迷ったあげく、生配信アーカイブ再生ボタンを押す。

「ま、どうせこいつ僕の配信を全部見て、攻略のヒントを得てるんだろ。言わ

なきゃわかんないからね。僕はまったく不正してないけどね。こいつは不正し

てるでしょ」

 なんの根拠もなく決めつける。

 ゲームが始まるものの、未天使くんは心配になるほど、しゃべらない。マイ

クに乗っているのは、所々の息づかい。無言で集中して操作している。そんな

Vチューバーいる? 配信してること忘れてない? それじゃあ自宅でひとり

でゲームしてる普通の人じゃん。おいなんか喋れ。しかし書き込まれていくコ

メントは温かい声援だけだ……。といってもまったくしゃべらないわけではな

く、たまにぼそりと独り言を言っている。その声は低めだが、男の子とも女の

子とも言い切れない、独特のかわいさがあった。


 コガは次に、SNSをチェックした。

「ちょ、まってこいつ僕よりフォロワー多いじゃん」

 内心焦った。

 コガは極めて慎重にSNS中毒にならないように、一日の内に一回しかログイ

ンしないようにしている。書き込みも配信を予告する時くらいで、日常ネタは

意識的に避ける。身バレが怖いのもあるけれど、コガはコンシューマーゲーム

が好きなのでスマホはあまり見ない。稼働してないから当たり前だろう。

「ま、まあ、僕がツイ廃になればぁ、10万フォロワーくらいすぐ行くけどね!」

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