上機嫌〝王子〟と不機嫌〝団長〟
「なあ、この間、自由時間に俺、〝光輝〟がいった現場にいっただろ?」
この日、ポールはワタルに会うとなにか食おうと誘った。いやに上機嫌で、奢ってやるからなんでも好きなものを食えばいいといった。ワタルは前向きであり、また単純な男である。初めて会った日にポールにいわれた、ただで飯が食えることほど幸せなものはないというのに強く共感している。また、ワタルは上機嫌なのを微笑ましく思うほどポールを好いていないが、上機嫌なのを気色悪いとか憎たらしいとか思うほど嫌ってもいない。その上機嫌を無視すればただで飯が食えるというのだから、ポールとの食事を拒む理由はなかった。
ワタルは豪勢な料理を食いながら「うん」と声だけ発した。
「なあなあ、すごいんだよ、〝光輝〟って、やっぱり」
ワタルはジョッキの中身を口にたっぷり含むと、なにも考えずに頷いて続きを促した。
「あのな、あのな、すんごいでっかい魔物だったわけ、この間の現場にいたやつ」
「うん」
「でね、俺のあとにもきた人たちがいてさ、なあ、誰だと思うよ? 〝宝飾の輪〟だよ、〝宝飾の輪〟!」
ワタルは高価な料理の美味を噛み締めながら頷いた。
「それでさ、ねえ、お前覚えてる? 〝宝飾の輪〟のハリー・ジェム」
「ううん」
「〝宝飾の輪〟の団長でさ、ほら、赤髪のさ、短剣を使う人だよ」
ワタルは薄く切られたうまい肉を口に入れて幸福に浸った。
「それがまたかっこよくてさ、でーっかいんだよ、相手は」ポールは「これくらい——」と腕を広げて、すぐに「違う」と諦めた。「全然表現できないけど、すごいでかかったんだ。それで口からどんどん新しい個体を出してくるんだよ」
「ケツじゃなくてよかった」
「その口から出てくるのがちょろちょろ動き回って突っかかってきて厄介なの、口から出てくるときに毒浴びてるし」
「うん」
「俺たちはその口から出たのを切って回るので精一杯だったのにさ、ハリー・ジェムはでっかいのに突っ込んでいったんだ!」
「うん?」でかい、それなのに突っ込んでいった? でかいもの、それに突っ込んでいった? ちょっと考えて面倒になって諦めた。「……うん」
「あの、ほら、〝宝飾の輪〟って三人組だろ? ハリー・ジェムは、ジョン・ギブソンとジョシュア・エヴァンスと並んで走って、でっかいのに突っ込んでいったんだよ!」
ワタルの頭の中で〝宝飾の輪〟が縦に並んでしまったものだから、もうわけがわからなくなった。あとから横に並んでいたのだろうと思い直したが、もう想像する場面に迫力がない。
「すごくないか、周りにうじゃうじゃ魔物がいる中で、でっかい親玉に突っ込んだんだ!」
「親玉に近づくために、魔物がうじゃうじゃいるところに突っ込んでいったってこと?」
「そうそう!」
「で、ジョン・エヴァンスと……あれ、なんだっけ」
「ジョン・ギブソンとジョシュア・エヴァンスだ」
「うん、その二人を両脇に置いて、魔物がわらわらいるところに道を作りながら突進したわけだ?」
「うん」
「じゃあ、〝光輝〟のすごさってなに? ハリー・なんとかが突進した話だろ、これ?」
「違う違う、ハリー・ジェムは大量の魔物を切りながらでかいのに立ち向かったのがかっこいいだろ? あ、そうだ、ハリー・ジェムはでかいのに近づくと、短剣を一本、」ポールは物を放るように手を動かした。「投げたんだ!」
「それで倒したのか?」
「ううん」
「ああそう?」
「短剣が刺さった胸は敵の急所じゃなかったんだ。ハリー・ジェムはちょっと慌ててたけど、そこでアレクセイ・トップが動いた! 彼は素早く魔物の後ろに回って、ずばっと!——魔物の体をきれいに切っちまったんだ!」
「へえ」
「どうだよ、かっこいいだろ?」
「〝光輝〟と〝宝飾の輪〟とお前がいたんだろ? 〝宝飾の輪〟は団長のハリー・ジャムって人と色々やってたみたいだけど、〝光輝〟のほかの団員はなにしてたんだ?」
「ハリー・ジェムだ、ジャムじゃない」
「失敬」
「〝光輝〟のほかの人もずいぶん戦ったよ。相手の数があんまりに多かったから、うじゃうじゃしてるのをやるので精一杯だったんだ」
「ふうん。それで、仲よくなれそうなのか?」
「いい感じだ。アレクセイ・トップが俺を過大評価してる」
「それはよくないな、ちゃんと否定したか?」
「相手が認めてくれることに甘えようかとも思ったけどな」
「そうか。まあ頑張れよ」
「違う違う、お前もこの中に入るんだから。なに傍観者気取ってんだよ」
「いいよ、もうお前だけでやれば。俺は平和に暮らしたいんだから。カミサマが殺そうとしてるってだけで不穏なのに、これ以上危険な目に遭いたくない」
「だからこそ俺と行動するんだ」
「お前と行動したがためにカミサマとやらが自分を殺そうとしてるらしいってことを知ったんだけど」
「いいか、悪いけどここは、俺たちが生きてるこの世界は、全部カミサマの頭ん中にあるんだよ。ここも俺たちも全部、カミサマの頭ん中の一部に存在してるんだ」
「嫌な世界だよ、まったく」ワタルはジョッキの中身をゆっくりと口に含んだ。
「俺たちの拘束時間は、カミサマが俺たちのことを特に考えてる時間、いい方を変えれば、——ああ、だからカミサマの意識が、俺たちの世界を構築してる部分に入り込んでくるときなわけ」
「わかってるつもりだよ。それがどうした。俺がこういう自由時間にどれだけお前と一緒にいようと、結局、干渉が始まればどうしようもない」
「お前って馬鹿だろ。それとも俺の説明がへた?」
「どっちも。俺は馬鹿でお前の説明もへたなんだ」
「で、だから……前にお前自身もいってただろうが、カミサマに願いが届くかもしれないって。そうすればカミサマの気が変わるかもしれないと思ったわけだろ? そのとおりだよ。ここはカミサマが意識しようとしまいと、カミサマ自身の頭の中なんだ。だから俺たちは、カミサマの無意識に訴えかけることができる」
「ふむ」
「なんでお前がいったことを俺がお前に解説しなきゃいけないんだよ。で、だからお前は俺と行動してれば、カミサマに殺されずに済むかもしれないわけだよ」
「俺がわからないのはそこだよ。自分がいったことくらい覚えてる」
「よし、わかった」ポールは背中を伸ばした。「はっきりいおう」
「最初からそうしてくれよ、焦れったい」
「俺はカミサマのお気に入りだ」
「へえ、この間もいってたな? それでヴィクトリアに気持ち悪がられてた」
「だって設計図を見ただろ? いや、見なくてもお前より気に入られてるのは明白だ」
「いうね」
「見た目に反映されてる」ポールはちょっと小さな声で早口にいった。
こればかりはワタルも否定しなかった。苦く笑って「なるほど、たしかにね」と頷いた。
「だから俺といろっていってるんだ。こういう、干渉されてない自由時間に俺たちがすることは、いくらかカミサマの意識に影響を与えるはずだろう? もちろん実際のことは知らないよ。でもこっちは命がかかってるんだ、思いつく可能性には縋りたいじゃないか。カミサマのお気に入りである俺と仲よく一緒にいれば、カミサマの意識するところでもなんとなく俺とお前の距離が縮むかもしれない。カミサマが俺とお前が親しいと意識するわけだよ。別に実際に親しくなる必要はない。今までどおり互いを馬鹿なやつだと思ってればいい、一緒にいる目的はカミサマに俺たちが親しいと思い込ませることだから」
ワタルがなにかいおうとしたのを察知して、ポールは「で、」と声を強めた。
「どうせお馬鹿なワタルくんはいいたいんだろ、カミサマのお気に入りといてどうなるんだとか、なんとか、かんとか。じゃあ考えてみろ、カミサマはお気に入りのキャラクターに馬鹿げたイニシャルをつけるようなやつだ、気に入り方がおかしいんだよ。じゃあそんなカミサマ、自分の気に入ってるキャラクターが気に入ってるキャラクターがいたとしたらどうする?」
「待て、なんて?」
「カミサマ自身が気に入ってるキャラクターに、気に入ってるキャラクターがいたら、どうすると思う?ってこと」
「ああ、そういう。わかった」
「しかも自分はそのキャラクターを——」ポールはぷつりと言葉を切って天井に目を向けた。「ああ嫌だ、頭おかしくなる」とぼやいて首を振った。「ええと、自分は、自分のお気に入り、それにとってのお気に入りを、殺そうとしてる。……うん、そうだよな、合ってる。で、自分がそうしたいままそのキャラクターを殺してしまえば、自分が気に入ってるキャラクターが悲しむだろうとか考えると思わないか?」
「なるほど」
「伝わった、いいね? そう、俺はそれを試したい。せっかく自分がカミサマに気に入られてると気づけたんだから、それを使って人を助けられる可能性があるなら、ぜひ試したい」
ワタルは相手の厚情にくすぐったくなって、ジョッキの中身で口と喉を濡らした。「お前は、なんで俺にそこまでするんだよ?」
「じゃあお前は、貧しい地域で腹を空かせた子供を見つけて、手に持ってるパンをくれてやらないのか?」
「俺は腹を空かせた子供?」
「俺にうまいたとえなんか求めるなよ」
ワタルが「それもそうか」とふざけると、ポールも「うるせえよ」と笑った。
と、ややこしい話に疲れてジョッキに口をつけたポールに「あれ?」と声が聞こえた。見れば、赤い髪を生やした男が通路にいた。ハリー・ジェムである。ジョン・ギブソンとジョシュア・エヴァンスもくっついている。
「お前、この間〝光輝〟の現場にいただろ?」
ポールはちょっと嬉しくなってジョッキを置いた。「ええ、いました、いました!」
「だよな。俺、ハリー・ジェム。こっちがジョン・ギブソンで、こっちがジョシュア・エヴァンス。名前聞いてなかったな?」
ちょっと姿勢を正して名乗った、「ポール=カルダー・エッカートです」
「そんな覚えやすい名前だったか?」とワタルがからかう。
ポールはちらとワタルを睨んだ。「ポール=ロナルド・イアン・ネイサン=カルダー・エッカートです、覚える必要はありません」
「なんでそんな長いの?」とジョン・ギブソン。
ポールは以前ワタルに答えたように答えた。ジョン・ギブソンは「三人も姉さんいるんだ」と珍しそうにいった。こやつは一人っ子である。
ポールは〝宝飾の輪〟の喉元に視線を吸い寄せられた。誰も彼もきれいに光る丸い石をくっつけている。「なんです、それ?」
ハリー・ジェムは自らの体に埋め込まれた赤い宝石を撫でた。「団の名前に負けないようにと思って。ばちんと」
「ええ……すごい勇気ですね」
「まあ、団長が望むならこれくらいは応えないとね」と、ハリー・ジェムの肩に腕を乗せて得意になるジョン・ギブソン。一方、あの店での彼を知らないポールは、魔物狩り集団という世界の、長の力の強さに内心震え上がった。
「〝宝飾の輪〟ですか?」とワタル。「今、こいつがみなさんと〝光輝〟と戦ったときのことを話してたんですよ」
「へえ?」ハリー・ジェムは気分をよくして、ポールを長椅子の端にやって隣に座った。ワタルが端に寄ったので、そちらにジョン・ギブソンとジョシュア・エヴァンスも着いた。
「なになにィ。嬉しいじゃないのォ、話の主役張れるなんてさァ? ちゃんと俺たちのかっこいいところ話してくれた?」
ワタルが苦笑した。「そいつ、興奮すると絶望的に話がへたになるんです」
「へえ、」ハリー・ジェムはおもしろそうに笑った。「見てくれはなんでも器用にこなすような感じだけど、子供みたいなやつなんだ?」
ジョン・ギブソンがワタルの前にある皿に残った細長いものを覗き込んだ。「それ、なに?」
「じゃがいもを、あげる?……とかしたやつです、うまいですよ」
「揚げたの? 油使ってるんだ、高級品だ。食っていい?」
「ああ……どうぞ」
ハリー・ジェムがまた笑った、「ジョンはすぐに
「気づいたら一番うまいものがなくなってますから」とジョシュア・エヴァンスが続いた。
ワタルらの着いた席が外がよく見え、また外からもよく見える場所であったのがよくなかった。
ウィル・ブロンドンはふと店の中に見知った男どもが見えて足を止めた。後ろからトム・レヴィンに呼ばれて、気に入らない光景を顎で示す。
トム・レヴィンはありたけの憎しみを込めて呟いた、「ハリー・ジェム!……」
「光輝と一緒に仕事したらしいな」とドナルド・ハンター。「でかい仕事だったらしいぜ、よっぽど金が入ったんだろう」
「悲しいなあ、……悲しいなァ!……どうして俺は、あいつらが光輝と仕事したことをあとから知る?……どうして俺は、稼いだ金で飯を食うあいつらを外から見ている、こんな気持ちで!……」ウィル・ブロンドンの怒りやら憎しみやらはいよいよ本格的な悲しみに変わっていく。「ああ、五人だ、あそこにいるのは五人……〝黄金の冠〟は六人だろう?……どうして五人しかいない? しかも二人は知らないやつだ!……それで、それでどうして、ああ、あいつらはあんなふうに笑ってる?……違う、違う……違う違う違う! あいつらのいるべき場所はあそこじゃない、知らないやつと飯を食ってる場合じゃないんだ、あいつらは! あいつらはここへ、俺の元へ戻って稼いで、うまいものを食って、笑ってるべきなんだよ!」
トム・レヴィンは仕事道具の入った腰のポーチを撫でた。「迎えにいきますか」
ウィル・ブロンドンは震えるように三度四度と頷いた。「ああ……ああ、そうしよう、あいつらをいるべき場所に連れ戻すんだ、正しい場所に!……」
「殺すんじゃないの?」とドナルド・ハンター。
ウィル・ブロンドンは勢いよく振り返って叫んだ、「そんなことはしない!」まるでドナルド・ハンターの言葉に怯えるような口調と表情である。それから子供を諭すように首をゆるゆる振る。「違うんだよ、ドナルド、違うんだ、俺はあいつらに帰ってきてほしいんだ。それを殺すだって? そんなことじゃあ、誰も幸せにならない!」
ドナルド・ハンターは安定しない団長の心の持ちようにすっかりついていけなくなった。去った団員を愚か者といって怒ったり、殺意に近い憎しみに任せて剣を抜いたたかと思えば、こうしてずいぶんかわいがっているかのような顔をする。
「じゃあ話し合いにいくのか?」
「ああ!……」ウィル・ブロンドンは嘆き叫んでは頭を抱えた。「だめだ、悲しいことに、あいつらはもう俺の言葉を聞いちゃくれない」
「じゃあもう放っておくのがいいんじゃないの」
「だめだ! そんなことはできない。あいつらは進む道を間違えてるんだ、それを放っておくなんてできるものか!」
ドナルド・ハンターは店を顎で示した。「じゃあこの店にはなにをしにいくんだよ」
「説得だ、説得するんだ……〝黄金の冠〟の強さを
ドナルド・ハンターは天を仰いで目をぐるりと回した。ハリー・ジェムらが抜けてからというもの、ウィル・ブロンドンの感情を理解できたためしがない。
突然、穏やかな店内に悲鳴が弾けた。ワタルは思わず首をすくめて身を低くした。「なんだ?……魔物でも入ってきたのか?」
ジョン・ギブソンも驚いて、食っていたじゃがいもを揚げたものが気管に入りそうになった。
「さすがにそりゃないだろ」とハリー・ジェム。「働かずにお金が欲しい人じゃないの?」
ジョン・ギブソンが腰を上げる。口に残ったものを、ワタルのジョッキの中身で流し込んだ。「それならそれで取り押さえないと」と真っ当なことをいう男を、ワタルは直前の行動のせいで複雑な心持ちで眺めた。
と、悲鳴はますます鋭く痛々しいものになる。女の悲痛な声が「ジャッキー、ジャッキー!」と叫び出す。
ワタルら一同、顔を見合わせると席を立った。ハリー・ジェムは出入り口付近で暴れたらしい男を見て愕然とした。ポールもまたそれと同程度の衝撃を受けた。
ハリー・ジェムは震える唇を噛んだ。「ウィル——ブロンドン!……」
「お願い!」と女が叫ぶ、「ねえお願い、誰か診療所の人を呼んでちょうだい!」女は腹から血を流している女を大事に抱き、祈るように泣いた。
「ウィル、なんのつもりだよ!」
ウィル・ブロンドンは混乱の中で優雅ともいえよう調子で両腕を広げた。「ハリー、迎えにきたぞ」
「迎えだ?」
「ハリーだけじゃない、ジョンもジョシュアも、迎えにきた。こっちにこい」
「いかれてんな、誰が出ていけっつったよ? お前だろうが。お前が望んで、俺も同意して、そうやって抜けたんだろうが。役場からも連絡がいっただろ、そのときにも、お前は俺らの脱退を認めてた。それをなんだって今更戻ってこいなんていう?」
「お前は、俺の元にいるべきなんだ。〝黄金の冠〟に」
「いいって、宝飾の輪で満足してるから」
「違う、それは間違ってる。そこはお前のいるべき場所じゃない。お前らの、いるべき場所じゃない」
「本当になにをいってるんだ」
と、トム・レヴィンが右腕を振った。長細いものがうねって飛んでくる。ナイフを振り回すのにも攻撃から逃げるのにもワタルらが邪魔だった。ハリー・ジェムは長細いものの動きをよく追って、先を掴もうとした。が、右手は空を掴み、手首は切り落とされない代わりに縄に捕らえられた。
トム・レヴィンはハリー・ジェムを睨んだ。「戻れといっている」
「鞭だけじゃなく、縄まで振り回すようになったのか、トム?」
「戻れと——いっている」
ハリー・ジェムは下を向いて首を振った。こちらに向かってくるつま先が見えて顔を上げれば、ひんやりとしたものが顎にあてられた。ウィル・ブロンドンが剣を突き出して、恨んでいるのか憐んでいるのか悲しんでいるのかわからない目を向けている。
「ハリー……これはなんだ?」
「なにが」
「その、赤い石。どういう理屈でくっついてるのか知らないけど、あまり似合ってないし、目に立ちすぎる。外した方がいい」
と、ここからちょっと離れたところで、通報を受けてやってきた診療所の者が腹に傷を負った女を運び出した。ほかに負傷者は、との診療所スタッフの声に、ドナルド・ハンターがいいえ彼女だけですと愛想よく答えた。それからほかにいませんね、と店内に顔を向けたが、自分らのことを見逃せと目で脅した。
「俺は、」とハリー・ジェム。「宝飾の輪の団長だ」
「へえ。団長? 団長なあ……団長……」ウィル・ブロンドンはハリー・ジェムを睨んだ。「お前は団員だろうが! 〝黄金の冠〟の! 団長は俺だろうが、なんでわからない!」
「だっから抜けたでしょうが、俺は! 俺たちは! もうお前の団の一員じゃないんだよ、お前もそれを望んだだろうが! 気が合わないんだよ、考え方が違うの、なあ、わかるだろ? どうしたっつうんだよ!」
ウィル・ブロンドンは剣を振ってハリー・ジェムの右腕を解放した。「お前らは〝黄金の冠〟の中でしか生きられない! 宝飾の輪だ? 馬鹿馬鹿しい! お前らのいるべき場所はそこじゃない! 戻るんだ、ハリー・ジェム——ジョン・ギブソン、ジョシュア・エヴァンス」
「もしも、もしも戻ったとして、それでも、俺はお前を〝団長〟とは呼ばないぞ」
ウィル・ブロンドンは涼しげに微笑した。「そんなふうにはさせない」
「俺はもうお前を団長とは呼べない。お前は団長にふさわしくないから」
トム・レヴィンは縄を振って、ウィル・ブロンドンの切った方を左手に掴んだ。
「外で話しましょう」ジョシュア・エヴァンスである。「ウィル・ブロンドン団長」
ジョシュア・エヴァンスの態度を気に入ったウィル・ブロンドンは、仲間を引き連れて店を出た。
ジョシュア・エヴァンスはハリー・ジェムとジョン・ギブソンとになにやら囁いたが、ポールの
なにをするのかと思えば、宝飾の輪の三人は店を出るや駆け出した。ぽかんとするワタル、ポールに「馬鹿野郎、早くいけ!」と怒鳴られる。
「待て馬鹿、なんの騒ぎだよ⁉︎」
説明を求めても「お前に治療師の真似事ができるのか!」とまた怒鳴られたワタル、わけはわからないがほかにしようがないので、駆け出した宝飾の輪と、それを追っかける黄金の冠を追っかけて走った。
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