第2章 ガラムとシンワダチ

第021話 《眼の能力》

 ある日の何でも屋での打ち合わせの様子。


◆ ◆ セロの教鞭 ◆ ◆


 《眼の能力》について、俺が知りうる情報を共有しておこう。今から言うことは、この前のトレーニング中に伝えた項目と一部は重複している。情報消失の性質により口頭でしか伝えることができないから、復習だと思って記憶してくれ。不明点があれば、質問もオーケーだ。

 1つめに発現する能力のタイプ、2つめに能力の強度、3つめに能力を得る方法、4つめの能力の副次的な恩恵、5つ目に情報消失の性質だ。そして、最後に能力の暴走について伝えておく。


◆ ◆ セロの教鞭 ①発現する能力のタイプ ◆ ◆


 はじめに、発現する能力のタイプについて。俺が独自に3つのタイプに分けている。


 1つめは、自身の肉体に作用させて特殊な効果をもたらすパターンだ。俺はこれを内向系と呼んでいる。レティナの《観測スペクティ》は分かりやすい例だな。俺の《手剣マネンシス》や《移動モヴィーレ》もこれに該当する。いや、正確には《移動モヴィーレ》は、後で説明する外向系とのハイブリッドだな。

 内向系の能力は、外向系の能力とは違って特に制限なく行使できるのが強みだ。寝ているときなど意識がないときでも常時発動させられるから、反射的に身を守ることに繋がる。俺に関していえば、俺の身体に傷をもたらすような衝撃を皮膚に感じると自動的に高速移動して危害から逃れるようにプログラムしている。こういう反射による能力講師は習得には時間がかかるが戦闘において有用だ。


 2つめは、遠隔の物理法則を捻じ曲げるパターンで、外向系と呼んでいる。ティオの《グレイシー》はまさに外向系だ。火に似た熱光源を発生させるというモーシュの能力もこれだろう。俺の高速移動の能力のうち、移動先を指定する部分に関しては外向系に含まれる。外向系は、能力を行使する対象の空間を正確にイメージできていないと上手く扱えない。基本的には能力を行使する先を視覚で認識する必要がある。

 空間認識力は、外向系の能力の強度と正確性に寄与する。逆に言えば、外向系の能力をもつ人間と相対した場合は、相手の視界を塞ぐのが効果的となる。先日、ティオが実践したという例がわかりやすいが、戦う場の空間的な構造を変えてしまうというのも効果的な方策だ。


 眼で見ずとも音や手触り、記憶で空間を把握して能力を行使することを、俺は不視行使と呼んでいる。ぜひとも、ティオには引き続き空間認識力を鍛えて不視行使の幅を広げてほしい。


 外向系の能力のうち、特に手のひらや指先で触れた物体に対して作用できるタイプがある。これを特に外向接触系と呼んでいる。コルネウスの物質を粉々にする能力は、外向接触系だと想定される。

 何をもって接触とするのか、その定義に関して重要なことを伝えておく。基本的に、衣服に触れることも人体に触れることの範疇だ。これは、人間が文化的に衣服を着用する生物であり、衣服も身体の一部と認識していることによるものだと俺は考えている。

 検証しきれていないので断定はできないが、能力を行使する側の「身体に触れた」という感覚と、能力を行使される側の「身体に触れられた」という感覚が噛み合うことが外向接触系能力トリガーだと考えられる。たとえば、ウエディングドレスのように極端に長く装飾のある衣服の端であれば、能力を行使する側も身体に触れたとは認識しにくいし、能力を行使される側も身体に触れられたとは認識しにくい。そのときには、ただ衣服そのものに対して能力が発現することになる。

 断定的なことを言えない以上、ルーズな衣服を着ることはオススメしない。能力を被弾するリスクを可能な限り下げておきたいからだ。依頼を遂行する際には、支給している例の制服を着てくれ。この夏場にタイトな素材は嫌だろうが、良い生地を使っていて命を守ることに繋がるから我慢してほしい。


 さて、発現する能力の傾向の最後、3つめだ。特定のルールを強いる空間を作り出すことができるタイプの能力で、空間系と呼んでいる。基本的に空間を作り出す先を指定する外向的な要素も含まれるため、空間系の能力は外向的タイプの特殊型と言えるだろう。

 モーシュシヒル邸で出会ったスプールの能力《影泳アンブラ》が空間系だ。レティナなら勘づいているだろうが、スプールの能力は影の中に入り、影の世界を高速で移動できる能力だ。影の世界という空間を生み出し、スプールが触れた物体しか影の世界に入ることができないルールを強いる非常に強力な能力だ。これを応用して、瞬間移動の手品を実現していたのだろう。火の演出は、影を作るための光源としても役立てていたというわけだ。


 また、俺が戦ったことのある相手で具体例を挙げると、立体的な迷宮の仮想空間を生み出してそこに引きずり込み、その中で衰弱させようとする能力者がいた。

 空間系の能力の発動は強力な反面、複雑な条件が必要らしい。俺が遭遇した迷宮を作り出す能力者は、自分も迷宮に居なければならず、自分の居る方向が引きずり込んだ者に認知されるという制約があった。俺は《移動モヴィーレ》があるからすぐに攻略できたが、迷宮を熟知してその立体構造を変化させられる相手であったので、対抗策がなければ負けていただろうな。

 スプールの《影泳アンブラ》も何らかの発動条件があるらしい。だが、それは弱点になりうるので俺にも開示しないように伝えていた。もしかするとティオなら条件を知っているかもしれないが、不用意にしゃべるなよ。人の思考を読む能力なんてものがあるかもしれない。知っている人間は少ない方がいい。


 さて、3つの能力のタイプについて説明した。どういう能力が発現しどういうタイプになるのは個人の特性によって決定されるようだ。俺は、幼少期に競技剣道を嗜んでおり、それなりにその道を愛していたと自負している。その特性が俺の《手剣マネンシス》に結びついていると思っている。ティオに関して言えば、生まれは北方でアイススケートを趣味としていたことが《グレイシー》に起因しているのだろう。プラモやゲーム好きも氷の造形を作ることに結びついているかもな。レティナは、研究に対する情熱が観察眼を高める《観測スペクティ》に繋がっていると思われる。

 もちろん、人間というのは肉体的にも精神的にも成長する生き物だ。既存の能力の強度や精度が高まるという深さの方向で成長するだけでなく、新たなタイプの能力を得るという広さの方向でも成長しうる。手札が増えると、《眼の能力》における戦闘で事を有利に運ぶことができるだろう。なるべく多くの物事に興味を持ち、自身の糧としてくれ。

 逆に考えると、特定の能力者と敵対し攻略したいと考えるのなら、その人間の性格や嗜好を把握し、どういうタイプの能力者であるのかを想定するのが糸口となるな。


◆ ◆ セロの教鞭 ②能力の強度 ◆ ◆


 タイプの説明でも少し話したが、能力の出力や精度は訓練して高めることができる。定量的なものではないので、異なる能力どうしを比較することはできないが、どれだけ古典的な物理現象を塗り替える現象を引き起こせるかというバロメータを俺は強度と呼んでいる。


 《眼の能力》そのものの性能のほか、空間認識力、想像力、体格の4要素が能力の強度に関わると以前にも教えたな。

 空間認識力が外向系と空間系の能力において重要になることは先ほど説明した通りだ。ティオは趣味のゲーム制作で空間認識力を培っているのをこのまま続けてくれ。レティナはそもそも《観測スペクティ》の性質上どんな環境でも正確な空間認識ができるはずだ。潜入先の建物の構造を正確に図面に起こしていたことを鑑みるに、ただ見えているだけでなく、それをしっかりと把握できているんだろう。今後の成長で外向系や空間系の能力が目覚めるとしたら強力なものになるだろう。


 どんなタイプの能力であっても、行使する本人が能力そのものを具体的にイメージできているほど出力する強度や精度が高くなる。特に空間系の能力者は脳内で思い描いた世界を空間に投影することになるので、想像力が重要視される。逆に言えば、空間系の能力者は思考に多大なリソースを割くことになるので、基本的にはそこが弱点となる。雑念を与えれば空間が安定しなくなるんだ。


 能力を成長させるのに最も鍛えやすいのは体格だ。物理法則を捻じ曲げるほどの強大なエネルギーを発するにあたって、大砲の砲身となる肉体を鍛えるのが肝要だ。

 しかし、能力を発現させ続けると、眼の奥がヒリヒリと熱をもったような状態に陥ることがある。機械のオーバーヒートを同じように、この状態になると能力の出力の精度が極端に落ちてしまう。連続的な出力にどれだけ耐えられるかというのも、体格や体力が関係しているはずだ。


 ある程度能力を鍛え続けて、もはや呼吸のように自然に力を扱えるようになると、反射的に能力を使うことができる。先ほど説明したが、俺は身体に物理的な危害が及ぶと《移動モヴィーレ》によって超高速で危害を避けるように反射的に動くことができる。また、《手剣マネンシス》で指先から出した刀が何かに触れると刀を伸縮させるとか、そういった条件付けでの反射行動もできる。応用の可能性は無限大だ。


◆ ◆ セロの教鞭 ③能力を得る方法 ◆ ◆


 続いて、能力を得る方法について説明しよう。


 レティナは拾った球体を覗いて遊んでいたら、転んで目に取り込んでしまったんだったな? そう伝えられたときは思わず笑ってしまったな。それは特殊なケースだろう。


 あの球体は、瞬間移動して特定の人間のそばに出現している。俺もティオも、そしてスプールも、普通の日常を過ごしていたときに手持ちのバッグや自室の棚など、透明な謎の球体が近くにいつの間にか現れたんだ。それを数日放置して、あるとき目に違和感を覚えたと思うや否や、能力を身に付けていた。おそらく、球体が自発的に目に入り込んだんだ。あの球体は、何かの意思をもって人間に能力を与えているのかもしれない。これは、成分分析の結果から球体が生物かもしれないという説を補強するものだな。

 以前、球体を破壊することはできないとは言ったが、単なる耐久性の高さだけでなくこの神出鬼没な面も破壊を困難にしている。


 ああ、普通はあんな異物を自分の意思で目に入れて取り込もうと考えるやつはいない。ただ、《眼の能力》を片目に保持していて、もう1つの能力が欲しいと考えている人間なら自分の意志で取り込もうと考えるやつもいるだろうな。そう、俺のように。


 球体が出現する条件や能力を与える条件には不明点が多い。5年前、俺の前に2つ目の球体が現れたとき、数週間経過しても俺に能力を与えることはなかった。それゆえ、球体を破壊してみる実験や、球体の成分分析を依頼できる猶予が生まれたんだ。成分分析後、俺は覚悟して球体を目に取り込んだ。人生で最も痛みを感じた瞬間だったな。サンプルが俺1人しかいないから確定的ではないが、2つ目の能力を得るには自らの意思で球体を取り込む必要があるかもしれない。そう考えると、俺のように2つの能力を持つ者はごくわずかだろう。


 能力者の遺体から摘出した眼球はただの正常な眼球だ。過去、外科と眼科に明るい裏稼業の医者に能力者の遺体を処理してもらったことがある。そのときに眼を解剖し鑑定してもらったから間違いない。すなわち、能力者の眼球は透明な球体とは異なり《眼の能力》を与えることはない。2つめの能力が欲しいから能力者を襲撃し眼を摘出する、というのは見当違いの行為だろう。大人しく球体がそばに現れることを待つしかない。


 ただ、コルネウスにより殺害されたと思しき能力者は眼球部分が破壊されていた。コルネウスは能力の拡大を抑えるため活動しているという俺の推測が正しいのであれば、能力者が死ぬことで眼球に寄生していた球体は転移し、《眼の能力》が伝播していくのだと考えることができる。それをコルネウスの能力は球体を破壊することで防いでいるんじゃないか、これが俺の自説だ。


◆ ◆ セロの教鞭 ④能力の副次的な恩恵 ◆ ◆


 さて、能力を得ると、副次的な恩恵が得られるというのも復習しようか。


 副次的な恩恵とは、自身の能力がもたらす環境変化に対して能力者自身の耐性を上げるものだ。おおよその場合、着ている衣服にも適用される。

 ティオの《グレイシー》であれば、体温の変化、特に冷気に対する耐性が異常に高まっている。昔にティオと合意のもとで実験をしたことがあるが、液体窒素に浸かったときでもティオの身体機能には一切の異常が認められなかった。ああ、もちろん、酸欠には陥ってしまうから耐寒装備を施した酸素ボンベを着けていたぞ。

 俺の《移動モヴィーレ》であれば、高速移動に伴う空気抵抗の衝撃や乾燥を無効化してくれている。亜音速で動くと摩擦熱で衣服が破れ皮膚が爛れてしまうのだろうが、無自覚でそれを防ぐことができている。

 レティナの《観測スペクティ》に関しては、外部に対して影響を与える能力というわけではないから副次的な恩恵がどのようなものか分からない。日常生活の中で何らかの違和感を覚えたらそれが副次的な恩恵かもしれないから、よくよく注意しておいてくれ。


 話を戻そう。副次的な恩恵というのは、能力者にとって無意識にもたらされているものだ。能力者自身でも、どこまで環境変化に対する耐性が得られているのか分からない。


 副次的な恩恵が能力者にとって不利に働くこともある。俺には特段気をつけるべきことはないが、ティオにはある。負傷部位を冷やして症状や痛みを緩和することができなくなってしまっている。ゆえに怪我をしてしまうと治りが遅くなりやすいから注意が必要だ。こういうふうに、副次的な恩恵が能力者に対する隙となる可能性を覚えておいてもよいだろう。


◆ ◆ セロの教鞭 ⑤情報消失の性質 ◆ ◆


 先日レティナが整理してくれたことでほとんど説明されているが、改めて伝えよう。《眼の能力》に関する情報は、どんな物理媒体からも消えてしまうし、非能力者の記憶からも消えてしまう。能力者の記憶の中にしか留めておくことができない。これは、超常的な力が働いていたと第三者から類推されうる間接的な痕跡にも適用される。


 電磁的に記録された情報であっても、紙の印刷や書き文字、石に彫った絵や文字であっても、《眼の能力》に関する情報が読み取れるようになっていれば、それは自然と書き換わってしまう。特殊な暗号として残していたとしても、それが復号化できて情報を引き出せるのであれば書き換わる。今、俺が発話している内容が録音されていたとしても、そのデータは破損するか、そもそも録音ができていなかったことになるだろう。能力者だけには分かる暗示的な情報は残せるが、非能力者がそれを見て《眼の能力》の存在に気づくことはできないように厳密に情報が統制される。


 情報消失は、能力による現象が生じてからおおよそ24時間以内には完了してしまうと思われる。ある非能力者に協力してもらって、《眼の能力》について伝えた後にそれを可能な限り記憶し続けてもらう実験をしたことがある。ノートにペンで内容を書いたり、発話し続けたり、できる限り記憶を維持してもらうように努めてもらったが、ふとその協力者が眠気に耐えかねて目を一瞬閉じたその後には、すべて忘れてしまっていた。もちろん、書いていたノートは全く別の話題が書き連ねられていたり、一部は白紙になっていたりして情報が改変または消失していた。俺もその様子を監視していたのだが、協力者の異変に驚いて視線を外した瞬間にその内容が書き換わっていたので、情報が消失する瞬間は認識できなかった。


 情報消失の強大さについては、実際にレティナも体感しただろう。俺が球体の成分分析をお前の研究室に依頼した事実も結果も記憶も消え去っている。他にも、俺が犯した罪である、教え子たちの遺体を損壊した事実も消え去って、爆発事故による大量死として扱われている。


 超常的な能力を隠すように働くこの性質ではあるが、今まで分かっているだけで例外が2つある。スクレラの異常な身体能力と、コルネウスの破壊する能力だ。この2つに関することは、情報消失することなく残り続けている。たまたま性質の対象から外れているのかもしれないし、そもそも《眼の能力》とは別枠の異能力なのかもしれない。


 また、超常的な力だと類推できない程度の痕跡であれば、そもそも情報消失は起こらない。ティオの凍らせる能力などでは、不自然な氷の量を出現させなければ情報消失は起きなかった。つまり、第三者の非能力者が「これはおかしい」と認識できない程度の変化であれば情報消失は起きない。

 結局は、一部の例外を除いて情報が消失するという事実があるだけで、その原因を含む詳細は何も分かっていない。


◆ ◆ セロの教鞭 ⑥能力の暴走 ◆ ◆


 最後に、能力の暴走について説明する。

 先ほど伝えた能力のタイプのうち、外向系と空間系の能力は暴走しやすい。

《眼の能力》を初めて得た時、感情が異常に昂った時、そういう時に制御できる範囲を超えて周囲に強大な能力を行使してしまう。そして、副次的な恩恵ゆえ能力者自身に耐性があることから、際限なく能力を放出し続けてしまう。


 俺がスプールとティオと共に生活し始めたきっかけは能力を得て暴走に苦しむ2人を救出したことにあった。行方不明になった子どもたちを捜索してくれと保護者から依頼があり、倒壊した小屋に閉じ込められていた2人を発見した。スプールは《影泳アンブラ》による影の世界に取り込まれて上下左右の感覚を失っており、ティオは流れる汗や涙、唾液などを《グレイシー》で際限なく凍てつかせて身動きが取れず呼吸困難に陥っていた。2人の眼を塞ぐことで能力の漏出を抑え、首を絞めて失神させてなんとか事なきを得た。


 内向系の能力であっても、程度は少ないがやはり暴走することはある。俺の《手剣マネンシス》であれば、数時間指から刀が出っぱなしになっていて手が使い物にならなくなった。《移動モヴィーレ》のときは、少し移動しようとするだけで音速並みの速度で動くようになってしまい、しばらく歩くことができなかった。《移動モヴィーレ》の能力を得るとき、経験から暴走することが分かっていたから周囲に迷惑がかからないように人里離れたところで球体を取り込むようにしていた。

 レティナも、《観測スペクティ》の能力を得て目覚めたときに周囲のあらゆる視覚情報が脳に叩き込まれたように感じたと言っていたな。それも能力の暴走の1つだったんだろう。


 さて、感情が異常に昂った時も能力は暴走しうると言ったな。俺は、例の事件でスクレラを抑え込むときに実は能力が暴走していた。スクレラも周りの子達の亡骸も傷つけたくないと思う中で、全身から刀が突き出すのを止められなかった状況は本当に精神に堪えた。だから、お前たちは常に冷静さを保つように心がけてくれ。特にティオは外向系だから注意が必要だ。逆に、外向系や空間系の能力者と戦うときには不必要に相手の感情を刺激してはいけない。暴走した能力は非常に強力であり、致命的な被害をもたらすだろう。


 お、レティナ、その顔は何か企んでいるな。当ててやろうか? 内向的な能力であれば意識的に暴走させることができれば周囲への被害を抑えて能力の強度を大きく高めて運用させることができる……なんてところだろう?

 はは、それは確かに正解だ。周囲や自身へ危害を与えるリスクを考えたうえで、わざと暴走させるというのは選択肢の1つとして頭の片隅に置いておくのもいいだろう。ただ、感情の異常な昂ぶりというのは、意識的にできるわけではない。とても冷静ではいられないという状況に追い込まれたときに、最後の最後に脳のリミッターを外すか否かの決断を下す余裕があるときだけ参考としてほしい。いや、そんな状況のときにまともな判断は期待できないか。


◆ ◆ セロの教鞭 おわり ◆ ◆


 さて、発現する能力のタイプ、能力の強度、能力を得る方法、能力の副次的な恩恵、情報消失の性質、能力の暴走に関して、俺が知りうる範囲のことを改めて伝えた。特に、透明な球体と情報消失に関しては分からないことがまだまだ多いから、これから解き明かす必要がある。


 俺達3人が得た《眼の能力》とはいったい何なのか、俺やレティナにとっては、スクレラはどうやって生まれて今どこで過ごしているのか。これらの謎を解き明かす鍵を握っているのは、レティナの父であるコルネウス=ホイールだ。


 スプールから得られるガラムの情報からコルネウスに関する情報に繋げられるかは分からない。しかし、今はとにかくどんな小さな可能性でもいいから謎を解き明かすため行動を起こすことが肝要だ。これまでは受け身で依頼を受けて活動を続け情報を集めていたが、何でも屋は明日からは自発的な活動も求められる。

 どうか、俺に協力してほしい。

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