第2話
なぜ我々人類はこの地獄のような異界に移り住まなければならなかったのか。
疑問に思ったことは数えきれないほどだ。
周りの者に聞いても首をかしげるばかりであり、また、本をどれだけ読もうともその理由について知ることはできず、いつしか胸の奥底で眠りについてしまった疑問だ。
たった今私が読み終えたこの本には、その疑問に関するすべてが書かれていた。
これまで私は外の世界が異界以上に荒廃してしまったから人類は現世を去らざるを得なかったのだろうと考えてきたが、しかし、それは真実に近いようで遠い答えだったようだ。
事実は小説よりも奇なりとはいうが、まさか現世がファンタジー小説に登場するような生物たちで溢れかえってしまったなんてことが異界に移り住んだ理由だとは思うまい。
竜や吸血鬼、九尾の狐、スライム、グリフォン、他にも色々といるようだが、人類はこれらの生物が現世に出現したことで半ば追い出されるような形で異界に閉じこもってしまったらしい。
この本の作者は異界から飛び出した人物であるため異界に閉じこもって以降に生まれた人であるらしく、追い出されたというのは作者の予想のようだが、この本に書かれていたように、彼が実際に目にしたというファンタジー生物の精強さが本当であるのならば人類では逆立ちしても敵わないだろうから、納得できる話だ。
それにしてもだ。
【変わり果てた世界での冒険について】は現世を冒険して回った作者の話だというが、あまりにも脆弱な人の身でありながら、一体どうして竜や鳳凰に似ていたという生物に打ち勝つことが出来たのだろうか。
それは本を読み終えて新たに生まれた謎だったが、生憎この図書館にはもう私が呼んでいない本はどこにもなかった。
ここにある本を読み終えたらもう一度読み返す日々が始まるのかと思っていたが、どうやらここは私の人生の分水嶺かもしれなかった。
異界から現世へ辿り着く方法も、現世で生き抜くための知恵も、この本にはまるでこれから現世へと旅立つ誰かに向けてのものであるかのように、あらゆる全てが記されていた。
この本は現世に旅に出ろという強い声を発しているのだ。
なぜか私はその声に応えなくてはならないと、強く想った。
黒に染まる べっ紅飴 @nyaru_hotepu
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