第12話 大人の魅力?②

そんなこんなで。

電車で三十分ほど揺られ、私たちは遊園地に来た。



「わ~遊園地なんて久しぶりだよ!」

「わ、私もです……っ」


「じゃあ入ろっか!」

「わ、わゎ!」



隣に守人さんがいる現実が信じられなくて、電車の中で「これは夢?」って何度も頬をつねったけど……どうやら夢ではなかったみたい。



「冬音ちゃん~! 見て見てー、これ!」

「え、わ! 猫耳のカチューシャ!」



私服姿の守人さんが、猫耳のカチューシャをつけてはしゃいでいる。ただでさえ背が高いのに、カチューシャ分もっと高くなったから、皆から注目されている。顔もウルトラカッコイイものだから、周りの女子は目をハートにして、守人さんを見ていた。



「守人さん、目立ってます……っ」



このままでは守人さんを、誰かの女子にとられちゃう気がして。私は必死に、守人さんにクールダウンするよう「シー」と言った。だけど、そんな必死な私に、守人さんは……


ポスン



「はい、これ。カチューシャ!」

「猫耳……守人さんとお揃い。可愛い……っ」



だけど「あ、お金」と。慌ててカバンに掛けようとした手を、守人さんはキュッと握って阻止した。



「いいんだよ。だって、今日は僕が来たくて来たんだから。冬音ちゃんは、わざわざ僕に付き合ってくれてる。でしょ?」

「でも、ここまでの交通費も何もかもお任せでは……」


「こういうのはさ、はしゃいでこそなんだから。せっかく来たんだから、一緒に楽しもうよ。冬音ちゃんが楽しんでくれた方が、僕は嬉しいんだよ?」

「!」



まるで周りを気にしていた私に、気付いていたかのように。守人さんは、目を細めて私を見た。お言葉に甘えていいんだろうか。でも……。



「冬音ちゃん」

「は、はいっ」



悩む私に、守人さんが目線を合わせる。

そして……



「今日の冬音ちゃんの任務は、楽しむことです。なので思いっきり笑って、おもいっきりはしゃぐこと!」

「!」

「分かりましたか?」



私と視線を合わせるため、膝を曲げたまま。ピッと敬礼する守人さん。そんな事を言われたら、私も体の内側からウズウズしてきちゃって……



「じゃ、じゃあ……思いっきり、はしゃいでも……いいですか?」

「うん、もちろん!」

「りょ、了解です……っ」



「もちろん」と言った時の守人さんの笑顔が、本当に嬉しそうだったから。ついつい私も、ピッと敬礼をし返しちゃったりして。


そして少しだけ素直な自分をさらけ出すと、不思議なもので。芋づる式に、ズルズルと「騒ぎたい欲求」が湧いてきた。


よし――守人さんの言う通り、今日は思いっきり楽しんじゃえ!



「じゃあ冬音ちゃん、パーッと楽しむぞー!」

「おーっ」



無邪気な守人さんにつられて、拳を空に突き上げる。これはこれでかなり目立ったけど……だけど、さっきみたいに「守人さんシー!」と焦る私は、もういなかった。



「守人さん、アレ乗りましょうよ! アレ!」

「お、ジェットコースターいいねぇ。僕は絶叫系得意だよ? 何回乗れるか勝負だー!」

「おーっ」



私の先を小走りした守人さん。だけど私が遅れたことに気づくと、すぐに立ち止まり、そして――大きなコートをバサリと翻し、私へと長い手を伸ばす。



「守人さん……?」

「人が多いからさ。手、つないどこ?」

「えッ!」



て、て……手⁉


今まで”座っているところを起こしてもらう”とか……。そういう接触はあったものの、ずーっと手を握った事はない。


だから……は、恥ずかしいよっ。

私、そうとう汗かいてるし……!



「~っ」

「冬音ちゃん?」



不思議そうに私を見る守人さん。もう……あなたのせいで、こんなに心臓ドキドキ鳴ってるんですよ――と声を大にして言えたら、どんなにいい事か。


だけど、



「……よしっ」



今日は楽しむって決めたから。今日ははしゃぐって決めたから。私が「やってみたい」と思ったことを、やってみればいいんだ。


ぎゅッ



「!」

「手、つなぎました……。これで、いいですかっ?」



顔を真っ赤にさせて、そんな事を言う私を。守人さんは「ふふ、OKです」と柔らかい笑みで見つめ、握ったままの両手をわずかに上げる。



「じゃあ、ジェットコースターに並ぼう!」

「はいッ」



お揃いの耳をつけて、手を握り合って、周りの人とぶつからないよう肩を寄せ合う。私が人とぶつかりそうになったら、クイッと手を引いて守人さんが無言で守ってくれた。たまにすれ違う”ガラの悪そうな人たち”の横を通り過ぎる時は、すごくナチュラルに私と場所を代わってくれた。


ねぇ、こんなの。

大事にされてるって、勘違いしちゃうよ――



「どうしたの? 冬音ちゃん。あ、一緒にジュース飲む?」

「い、一緒に⁉」

「僕はマンゴー味にしようかなぁ。冬音ちゃんは?」

「(あ、それぞれ飲むってことか。ビックリした……っ)」



守人さんが話すことに、いちいち過剰に反応したりして。こんなにドキドキが止まない遊園地は、生まれて初めてのことだった。

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