王への引導
教会の重厚な扉を押し開けると、そこには殺伐とした光景が広がっていた。 数十名の王宮兵士が剣や槍を構え、教会を取り囲んでいる。その中心に、煌びやかな鎧を纏った騎士団長が馬上で見下ろしていた。
「レオナルドだな? 生存者帰還の報せ、陛下も耳にされている」
騎士団長は尊大な態度で、まるで罪人を見るような目を向けた。 「ただちに王城へ同行せよ。そして報告するのだ。三千の兵を失ってなお、貴様がおめおめと生き延びた理由と──『秘宝』のありかをな」
変わっていない。 三年前、俺たちを死地へ追いやった時と同じだ。彼らにとって騎士は、使い潰す駒でしかない。命を賭して帰還した者への労いなどなく、あるのは尽きることのない欲望だけ。 かつてのレオナルドなら、無力感に唇を噛み締めながらも、王命に従って膝を屈していただろう。
だが、今は違う。
「……随分と、狭いな」
レオナルドはふと漏らした。 「何?」 「お前たちの器の話だ。死の淵を見てきた目には、お前たちが随分と小さく、脆い存在に見える」
「貴様ッ! 王の使者に対する侮辱罪で……!」 騎士団長が激昂し、剣に手をかけたその瞬間。 レオナルドの瞳孔が、爬虫類のように縦に裂け、紅く輝いた。
ドォォォォンッ!!
音のない衝撃波が、広場を駆け抜けた。 それは物理的な風圧ではない。デスナイトから奪った「死の威圧」と、ヴァンパイアから奪った「魅了(支配)の魔眼」。 生物としての格の違いを、魂に直接叩きつける絶望の波動だ。
「ヒッ……!?」 「あ、あぁ……」
兵士たちは悲鳴すら上げられず、ガタガタと震えてその場にへたり込んだ。 騎士団長の乗る馬は恐怖に泡を吹いて暴れ出し、団長を無様に地面へと振り落とす。 誰も動けない。誰もレオナルドを直視できない。 ただ一人、静かに歩みを進めるレオナルドだけが、この場の支配者だった。
彼は腰を抜かした騎士団長の前に立ち、見下ろした。 「ひ、ヒィッ……な、何だ貴様は……化け物……ッ!」 「安心しろ。無益な殺生はしない。俺が用があるのは、その首輪を握っている飼い主だけだ」
レオナルドは王城の方角──かつて忠誠を誓い、裏切られた場所を見据えた。
「陛下に伝えろ。『秘宝』よりも重い、三千の騎士たちの『遺言』を届けに行くとな」
言い捨てて、彼は歩き出した。 道を塞ぐ者はいない。兵士たちは恐怖に顔を引きつらせ、割れるように道を開ける。 背後で見ていたエレナが、不安げに胸の前で手を組んでいるのが気配でわかった。レオナルドは一度だけ振り返り、優しく、しかし力強く微笑んでみせた。 「すぐに終わる。そうしたら、今度こそ二人で静かに暮らそう」
それは死亡フラグのような言葉ではなかった。 圧倒的な強者が、ただの事実として告げる確約だった。
レオナルドは王城への大通りを堂々と進む。 その背中から立ち昇る気迫は、一人の騎士の枠を超え、国一つを傾けかねない「魔王」のそれに近かった。 だが、その心にあるのは私利私欲ではない。 散っていった仲間たちの無念を晴らし、愛する者との未来を掴むための、正義の進軍だった。
「さあ、清算の時だ」
かつて捨て駒にされた男が、今、審判者として王の喉元へと迫る。
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