渇望する魂


グールの力を吸収し、再生能力と剛力を手に入れたレオナルドは、以前とは比べ物にならない速度で迷宮を突き進んでいた。 足取りは軽い。腐敗していた筋肉が引き締まり、地面を蹴るたびに爆発的な推進力を生み出している。


「もっとだ……もっと喰らわなければ」


強さを実感するたび、胸の奥で黒い飢餓感が渦巻く。それはアンデッドとしての食欲ではなく、人間へと戻るための「進化への渇望」だった。今の力なら、これまで避けて通っていた敵もただの糧に過ぎない。


角を曲がった先、通路を塞ぐようにして整列する集団がいた。 「スケルトン・ナイト」。 錆びた鉄剣と盾を装備し、生前の戦術を模倣して動く骸骨兵たちだ。かつてのレオナルドなら、数人がかりで囲まれれば死を覚悟した相手である。 騎士たちがこちらに気づき、一糸乱れぬ動きで盾を構え、槍を突き出す。


「……試してみるか」


レオナルドは足を止めず、むしろ加速した。 真正面からの突撃。常軌を逸した行動に、骸骨騎士たちが迎撃の槍衾(やりぶすま)を作る。鋭利な穂先がレオナルドの胴体を貫こうと待ち受けるが、彼は構わずに踏み込んだ。


ドスッ、と鈍い音が響き、一本の槍がレオナルドの左肩を深々と貫通する。 だが、彼は止まらない。痛みは遠く、むしろ傷口が熱を帯びて活性化するのがわかる。 「この程度ッ!」 咆哮とともに、グールの剛力を宿した右腕を振り抜く。 バゴォン! 爆音と共に、骸骨騎士の盾が飴細工のようにへし折れ、その背後にいた本体ごと粉砕された。


「な……!?」 (声には出さないが、敵の動揺が伝わってくる)


レオナルドは突き刺さった槍を無造作に引き抜いた。傷口からは蒸気が上がり、肉の繊維が絡み合って瞬く間に塞がっていく。 これが、再生能力。防御を捨てて攻撃に特化できる、最強の矛だ。


「遅い!」


呆然とする残りの騎士たちに向け、レオナルドは暴風のように剣を振るった。 盾ごと叩き斬り、鎧の上から骨を砕く。技量に「力」が加わった剣撃は、もはや防御不能の暴力となっていた。 数分も経たずに、通路には粉々になった骨の山が築かれた。


戦いを終えたレオナルドは、立ち昇る魔力を深く吸い込む。 心地よい充足感と共に、また一つ、肉体の強度が底上げされるのを感じた。 (……足りない。これではまだ、デスナイトの足元にも及ばない)


雑魚を蹂躙するだけでは満足できない。 もっと強い力を。より特異な能力を。 彼は自分の手が、以前よりさらに人間らしく、血色を取り戻しているのを確認し、獰猛に笑った。 「次だ。次の獲物はどこだ」


迷宮の闇よりも深く、貪欲な光を瞳に宿し、レオナルドはさらなる深淵へと駆け出した。人間としての姿を取り戻すために、彼はより怪物的な存在へと変貌しつつあった。

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