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「帰るだと……? 笑わせる。この姿でどうやって」
俺は自分の手を見下ろした。腐り落ちた皮膚、剥き出しの腱。死の冷気が纏わりつくこの醜悪な身体で、愛しい人の前に立てるはずがない。 ならばどうする? このまま朽ち果てるのを待つか? ――否。 思考の奥底で、暗い本能が囁いた。 『奪え。喰らえ。そして創り直せ』 迷宮を彷徨う亡者たち。奴らの持つき魔力(エネルギー)を奪い取り、我が身の糧とすれば、あるいは失われた「生」を取り戻せるかもしれない。
「俺が人間に戻るには……この身を捨てて、進化するしかない」
覚悟を決めると、枯れ果てた身体の芯に、灼熱のような飢えが灯った。それは戦士の本能か、それとも魔物の性(さが)か。 目の前には、かつての同胞の成れの果てが蠢いている。悪いが、情けは捨てさせてもらう。お前たちは、俺が還るための礎(いしずえ)だ。
亡者たちがこちらに気づき、虚ろな眼光を向けてくる。 俺は地を蹴った。腐敗した脚とは思えぬ速度で間合いを詰める。筋肉は失われても、骨に染み付いた剣技は裏切らない。 振り下ろされる錆びた刃を紙一重でかわし、流れるような動作で首を撥ね飛ばす。
刹那、奔(はし)る衝撃。 斬り捨てた敵から漏れ出た光が、俺の身体へと吸い込まれていく。 「……ッ!」 力が満ちる。乾いたスポンジが水を吸うように、魂の輝きが俺の欠損を埋めていく。軋んでいた関節に油が差され、感覚のなかった指先に微かな痺れが戻る。
「……動きが、軽くなった」
確信は戦慄へと変わる。やはり、間違いない。 次なる敵が群れを成して襲いかかるが、もはや恐怖はない。あるのは狩人としての冷徹な計算だけだ。 一体、また一体。剣閃が走るたびに敵は崩れ、その命の欠片が俺の肉体を再構築していく。これはただの戦いではない。「進化」という名の捕食だ。
静寂が戻った回廊で、俺は大きく息を吐く真似をした。 かつては石のように重かった腕が、今は驚くほど馴染んでいる。だが、まだ足りない。人間としての皮膚、体温、鼓動を取り戻すには、どれほどの屍を積み上げればいいのか。
「どれだけ時間がかかろうとも……俺は必ず戻る」
その声には、以前よりも確かな力が宿っていた。 俺は血に濡れた剣を振るい、再び歩き出す。 たとえ修羅と化そうとも、どれだけの犠牲を払おうとも構わない。 人間の姿を取り戻し、彼女の元へ帰る。その執念だけが、今の俺を動かす全てだった。
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