レオナルドは帰りたい


終わりなき回廊を、ただ漫然と歩いていた。 剣を振るい、同類を土に還す。その行為に意味などなく、俺はゼンマイの切れかけた人形のように、緩やかな死へと向かっていたはずだった。


けれど、闇の底で呼び声がした気がした。 忘れかけていた、懐かしい響き。


――レオナルド。


口の中で転がしてみる。その名は、錆びた鍵となって閉ざされた記憶の扉をこじ開けた。 そうだ、俺の名はレオナルド。 すべての感情を捨て去ったと思っていた。名誉も、恐怖も、痛みさえも。 だが、どうしても捨てきれないものが、たった一つだけ残っていた。


灰色の記憶の中で、鮮やかに咲く笑顔。 俺には、守ると誓った人がいた。彼女が待っている。その事実だけが、この狂った世界で俺を「俺」として繋ぎ止めていたのだ。 他の者たちが意識を失い、迷宮の怪物へと成り果てる中、俺がまだここにいる理由。それは、あまりにも人間臭い、愛という名の未練だった。


「俺は……帰らなければ」


ここで果てれば、あの約束も嘘になる。 肉体は腐り、心は摩耗し続けている。いずれ完全に魔に取り込まれ、彼女の顔さえ思い出せなくなる日が来るかもしれない。 その恐怖が、逆に俺を奮い立たせた。


「こんな場所で、終わるわけにはいかない……!」


剣を握る手に力が戻る。それは死者の痙攣ではない。確固たる意志の力だ。 胸の奥で、消えかけていた命の灯火が再び勢いよく燃え上がる。 たとえこの身がどれほど醜く変わろうとも、心までは奪わせない。


「俺は、帰る……!」


決意の言葉が、迷宮の静寂を打ち破った。 一歩、また一歩と踏み出す足取りには、もはや迷いはない。 暗闇に沈んだ騎士の瞳に、理性の光が戻る。それは、絶望すらも道連れにして進む、決して消えることのない誓いの輝きだった。

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