家族のもとへ
自我の芽生え
重い足音が、静寂を汚していく。 かつての仲間であった屍を乗り越え、俺はただ歩いていた。 意識は泥の中に沈んだように重く、曖昧だ。大切な何かを零(こぼ)しながら歩いている気がするが、それが何だったのかさえ思い出せない。
「俺は……何を求めて……」
誰もいない闇に向かって呟く。返ってくるのは、自分の喉が鳴らす乾いた呼吸音だけ。 その時、暗がりから歪な影が現れた。 剣を引きずり、ゆらりと近づくその姿。かつて同じ釜の飯を食らった仲間だったはずの男。だが今、彼の瞳には俺を映す光すらなく、ただ殺戮の命令に従う人形となっていた。
「……そこにいるのか?」
声をかけようとした。だが、口から出たのは言葉にならぬ嘶(いなな)きだった。 絶望する暇(いとま)も与えず、相手が襲いかかってくる。 悲しいほどに、身体が勝手に反応した。思考よりも速く、染み付いた剣技が相手の隙を穿つ。錆びた刃が鎧を貫き、かつての友を沈黙させた。
崩れ落ちる骸から、一瞬だけ儚い光が漏れ、そして消えた。 あたたかな、人の温もりの残滓。それを見た瞬間、胸の奥が焼け付くように痛んだ。斬ったのは俺だ。俺が、彼を終わらせたのだ。
「ああ、何故だ……」
嘆きながらも、足は止まらない。 止まりたいのに、奥へ、さらに奥へと身体が引き寄せられていく。それはまるで、迷宮という巨大な胃袋が、俺を消化しようとしているかのようだ。
一歩進むごとに、過去が剥落していく。 友の笑顔も、愛した者の声も、すべてが闇に溶けていく。恐怖を感じることさえ、もうすぐできなくなるのかもしれない。 俺はいずれ、この迷宮の一部になる。 記憶も、心も、名前すら失って。 ただ闇を彷徨うだけの、哀れな怪物へと変わっていくのだろう。
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