第73話

「ハル」




そんな数日前の事を思い出していた俺は、カイの呼び掛けに振り返る。





「あの2人も、バンドもチーマーも辞めるって言ってた。ハルを置いて逃げた事、気にしてた…。ハルに合わす顔無いって」


「……俺が行けって言ったんだから気にしなくて良いのにな?」





聖夜程じゃないけど、俺もそれなりに代償はあった。


もう2度とBlessは揃わない。なんとなく俺はそれを悟った。


喧嘩をしたり、嫌いになった訳じゃないのに…あいつらとは、どうにも埋まらない距離が出来てしまった。


もう前と同じような時間は訪れない。


あの日々は、帰らない…。







「ハル。俺、一般入試は申し込みが間に合わなくて無理だったけど、二時募集で受験する事にした」


「へぇ……。どこ行くんだよ?」




あの事件の日、カイがBlessに入ると言ってくれた日。なんとなくカイは、高校に行くと言い出すと思った。


なんだか、あの尖った表情のカイじゃなくなったような気がしたから。





「…聖高校。家から近いとこで二時募集やってるところあんまり無くてな」





カイの言葉に一瞬驚いた俺だったけど





「……ふ。長い付き合いになりそうだな?カイ」






失ったばかりではなかったのもしれない。そう、素直に思えた。












……だけど、犠牲が多すぎた。



失った物が大きすぎた。















俺は滑稽な程に美しい青空を見上げた。







「なんだかなぁ……」





ーーー天使なんてはじめからいなかったーーー


……そうなのかもしれない。








「明日も昨日も、とても遠い……」









自由を歌った日々を心の中にしまって、俺は小さくそう呟いた。





















Sinful freedom


(罪深き自由)









【完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る