第3話

歩希は神戸英明高校の1年生である。

入学式の日に陸上部の扉を叩いた。

入学して1ヶ月が経っていた。

「ほまー」

ふと顔を上げてみると吉岡大地が立っていた。

昼休みの教室は、生徒の声で埋め尽くされていた。

「何だよ。大地」

「今度の日曜は……試合だったな」

「ああ。先輩の手伝い。1年生だからな」

「でもさ、お前中学の時も1回もレギュラーになれなかったじゃん。陸上っていうか……お前、向いてないんじゃないの?」

大地は小学校からの親友だ。

思った事をはっきり言う性格だ。

大地の言う通り、今まで歩希は全く結果を出せていなかった。

タイムが遅いため、試合に出る事はなかった。

いつも先輩や同級生が試合で走るのを応援していたのである。


「宮本」

ある日、練習を終えて道具を片付けていた所に監督の藤沢がやって来た。

「5000mを走ってみろ」

「えっ?はい」

突然言われて歩希は戸惑いながら走った。

歩希は毎朝必ず10km走っていたから、5000mは苦にならなかった。

14.50.22だった。

「宮本。悪くないぞ。いや、寧ろいい」

「はい…… 」

歩希はボンヤリ返事をしていた。

「お前はどうして短距離をやっているんだ?」

「オリンピック選手を見て憧れたからです」

「宮本、お前は長距離をやるべきだ。よく考えて返事が欲しい。今のお前のタイムは全国の高校生のベスト20には入っている。きちんとした練習をすれば14分40秒を切る事も出来るぞ」

「ありがとうございました」

声が上擦っていた。

俺が全国の高校生のベスト20⁈

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