第36話 毛玉遭遇
思いっきり翔太様と愛し合った翌日、翔太様が私の身体にの残したひりひりする感触に幸せを感じながらも、私の漠然とした不安感は拭い去れなかった。
翔太様の出身高校がこのすぐ近くにあり、翔太様曰く、この近辺は「庭同然」とのことだったので、冴島には休憩を取ってもらって、彼と二人でこの近くの観光エリアを散策することにした。
折しも京都は紅葉真っ盛り、翔太様の出身高校を見た後は、紅葉の名所と言われる永観堂に参拝し、南禅寺の近くの料亭で朝昼兼用の湯豆腐のコース料理に舌鼓を打った。
食事後は、南禅寺に参拝、南禅寺の境内にある水路閣を訪れた。水路閣は煉瓦で組み立てられた琵琶湖疏水の水路橋で、周囲の景観にマッチしてなかなかに風情がある。
石段を上がり、滔々と流れる琵琶湖疎水にをたどってインクラインに至った。インクラインは世界最長の傾斜鉄道跡で、高低差のある琵琶湖疏水の急斜面で船を運航するために敷設された傾斜鉄道の跡地だ。
地元民ならではというか、翔太様の道案内は的確で、史跡の説明も楽しく、面白く、私はしばし不安感も忘れて楽しいひと時を過ごした。
私たちは散策を終えて、蹴上疎水公園のベンチに腰を下ろした。
私たちは夕刻の新幹線で帰京することにしていた。もうしばらくしたら駅に向かわなければならない。
「寒くありませんか、暖かい飲み物を買ってきます。ここで待っててくださいね」
ひとりベンチに座り、ふと気が付くと足元に毛玉のようなものが動いている。なんと、それは子狐だった。
「こんにちは」
子狐が口をきいた。
「昨日、お参りに来てくれた、この国のお姫様だよね」
子狐が言うには、なんと、稲荷大神から言伝があるという。
「もうしばらくすると、昨日一緒にいた彼に、災厄が降りかかるんだって」
子狐がしゃべったことももちろんだが、その話の内容に愕然とする私をしり目に、子狐はことばを続けた。
「その災厄は、姫様たち二人の将来に大きくかかわることなんだって」
「じゃ、そういうことだから。頑張ってね」
そう言い残して、子狐は林の中に消えていった。
文字通り狐につままれたような気分でぼうっとしていると、暖かいコーヒーを持った翔太様が戻って来た。
「どうしたんですか、ぼうっとして。狐にでも化かされましたか?」
私は、昨日の伏見稲荷の子狐が来て、人間の言葉を話したと告げた。絶対笑われると思ったけど、彼は笑わなかった。
「ここは京都ですもん。狐だって、人の言葉くらいしゃべりますよ」
「それで、狐さんはなんて言ってたんですか?」
「なんでもない。昨日はお参りに来てくれて、ありがとうって」
私は正直に彼に告げることができず、言葉を濁した。
やがて、子狐さんの言伝は、私が予想もしなかったかたちで、現実となってしまった。
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