第37話 法律改正

 王室を巡る世の中の流れが、あっという間に、劇的に変わってしまった。


 きっかけは、大和国の王室を題材にした英国BBCのドキュメンタリー番組「Land of Rising Sun's Perishing Royal Family, 」(邦題:日出ずる国の滅びゆく王室)だった。

 

 番組の骨子は、徹頭徹尾我が国の王位継承ルールに対する否定、非難だった。

 曰く、大和国は古≪いにしえ≫よりの男尊女卑の風習が今も根深く残っており、王位継承もその悪しき因習に囚われている。

 若い世代が姫様ばかりになってしまった大和国の王室は、男王しか認めないその頑迷で時代錯誤な継承ルールにより、このままではもはや自壊するしかない。

 にもかかわらず、政治も、国民も、全く無策無関心である、大和国はどうかしている、といった論調の番組だった。


 まずTV報道がこの番組に飛びつき、ワイドショーが一斉に継承ルールの改正、女王容認のキャンペーンを始めた。

 

 我が大和国民はマスコミに先導されやすい。女王容認の世論が燎原の炎のように広がっていった。

 そして大和国民は同調圧力が強い。女王容認派が過半数を超えると、従来のルールを支持する人は頑迷な抵抗勢力とのレッテルを張られ、発言は炎上を招き、沈黙を強いられることとなった。


 そして政治家は世論に弱い。早速政府主導の有識者会議が、俺の時とは違って大っぴらに招集された。

 同じメンバーも多かったはずの有識者会議だ。少なくとも男系の継承を原則に一部女王も認める妥協案が提出されるのではと思ったが、あにはからんや、有識者会議の結論は、女王容認どころか、英国流の男女差なしの継承だった。

 

 この結論を受けて、政府は早速法の改正に動き出した。


 男女差なしの継承となれば、現国王の下の世代での王位継承権第一位は葵姫ということになる。二位は雅姫、三位は星姫と続き、俺はというと、継承権なしということになるのか、菫姫の次の六位ということになるのか。

 十代、二十代の継承者が上に五人もいる継承権六位なんて、そもそもあってもなくても一緒だ。


 例えば、葵姫が女王になる前提で俺を伴侶に選んだら、世論はどんな反応をするのだろうか。俺はその程度に考えていた。まだ、この時点では。



 瓜生さんに呼び出され、王室の方針説明を受けて、自分の考えは全くもって甘すぎたことに気づかされた。


「結論から申し上げます。翔太様には、この半年間にあったこと全てをなかったことにして、元の生活に戻っていただきたい」


 以下、瓜生さんの見解である。

「法が改正されて女性の国王が認められれば、葵姫を筆頭にわが国には五名の二十代、十代の継承者がいる。我が国の王位継承は盤石、失礼ながらあなた様はもう必要ない」

 これは俺も同感だ。


「男女平等の王位継承、この流れは止まらない。それとは全く違うかたちで王室庁が動いていたという事実がマスコミに知れると大変なことになる。あなた様の存在こそが大きなスキャンダルの元。どうか我が国の王室のため、そして姫様のため、黙って身を引いていただきたい」

 これにはかなりショックを受けた。勝手にそっちでひっぱりこんでおいて、てのひら返しとはこのことだ。

 

「ただちに職員寮を引き払い、元の生活に戻っていただきたい。この半年間にあったことはもちろん他言無用に願います」

 そういって、瓜生さんは深々と腰を折った。


「瓜生さん、さすがにそれはひどすぎませんか」


 反発する私に、瓜生さんも態度を硬化させた。

「以降、姫様のところに泊まったり、部屋に姫様を上げることは厳禁、連絡を取ることも避けていただきたい」

 

 姫様連絡用のスマホを問答無用で取り上げられ、俺は別室に軟禁された。



 

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