第25話 知己朋友(ちきほうゆう)

 私、葵姫は、勇気を振り絞って彼との約束を取り付けると、彼の部屋を訪れた。約束の六時より15分ほど早く彼の部屋につき、時計を見ながら、約束の時間になるのを待ってチャイムを鳴らした。


 いざ部屋に入って翔太様と向き合うと、あんなことも話そう、こんなことも、と準備をしてきたはずなのに、頭の中が真っ白になって、何も話せなくなってしまった。

 ああ、私、同年代の男の人の前に出るといつもこうだ。翔太様、きっとがっかりしているだろう、きっと詰まらない女と思っていることだろう。こんなことなら来なければよかった。


 と言って、来てしまった以上、後には引けない。

 今夜は、何としても、翔太様に抱いてもらわなければ、きっともう次はない。話ができない私にできること、思いつくことはこれしかなかった。

 

 私は、恥ずかしさを必死にこらえ、彼に抱かれるために、服を脱いだ。

 でも、最後の一枚をが脱ぐ段になって、どうしても手が動かなかった。

 前に進めなくなった私にできること、それは踵を返してその場から逃げ出すことだった。


 部屋を出るなり、不覚にも敵に見つかり、捕まってしまった。翔太様を色仕掛けで囲い込んだ四姉妹、その首魁と思しき私より三つ年上の従姉、雅姫にだ。


 最悪の展開だ。

 彼女は追いかけて来た翔太様を制すると、早速私を彼女の部屋に連れ込んで尋問を始め、私は、私の今夜の行状を洗いざらい吐かされてしまった。

 一通り尋問を終えると、雅姫は仲間の姉妹に集合をかけ、ほどなく星姫、愛姫、菫姫、敵の姉妹全員が集合した。

 彼女らからすれば私は翔太様にちょっかいを出そうとした泥棒猫だ。リンチは免れまい。

 私はどんな辱めををけるんだろう。最後の一枚もはぎ取られて外に放り出されるとか、木に縛り付けられるとか…


 ところが、意外にも、彼女らは私にとても優しかった。

 共に翔太さまを愛する者として、容認してくれるどころか、仲間認定?までしてくれた。


 狐につままれたような気分で、私は彼女らに連れられて、翔太様の部屋へ逆戻りした。

 どんな顔をして彼に会ったらいいのと大いに戸惑ったが、幸いにも、彼女らがぽんぽん話をしてくれるので、私は黙っていても大丈夫だった。


 突然、雅姫に、彼と話すように、話を振られた。

 話せる話をすればよいと言われて、とっさに頭に浮かんだのが、私の大好きなお城の石垣だった。

 いきなり石垣の話を始めたら、普通は相当に惹かれるに違いない。でも、翔太様は「面白そう、聞かせて」と言ってくれた。

 

 相槌を打ちながら熱心に聴いてくれるので、私もつい夢中になって、気が付くと一時間ほども話をしていた。

 いつの間にか私以外の姫様たちは退出、部屋には二人っきりだ。


 気づくと、スマホにメッセージが入っていた。雅姫からだ。

 

「今夜はあなたに塩を送るわ」


 彼女ったら上杉謙信気取り?

 彼女の心遣いがありがたくて、嬉しくて、涙が溢れてきた。


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