第24話 同盟結束
翔太くんの住む職員寮への引越しの許可をお父様にもらった私、雅≪みやび≫姫は、引越しのために社宅の部屋に向かっていた。
引越しといっても同じ王宮の敷地内のこと、必要最低限の荷物だけは既に運び込んである。後は必要に応じて取りに戻ればよい。
翔太くんがお泊りにくる部屋だ。早く暮らせるように準備をしてしまいたい。
すると、翔太くんの部屋から、裸の女性が裸足で走ってくるではないか。
なんと、 ストリーキング女の正体は葵姫だった。
後から追いかけてくる翔太くんを手で制して、彼女に駆け寄り身柄を確保した。
ただならぬ様子の葵姫を、このまま翔太くんに引き渡すのも躊躇われた。
彼には事情を確認して後で連絡することにして、まだ引越し荷物も片付いていない私の部屋に彼女を案内した。
私は、着ていたジャージの上を脱いで彼女の肩にかけながら聞いた。
「そんな恰好で、一体何があったの?」
しどろもどろの彼女の話から何とか推測したところによると、勇気を出して翔太くんの部屋を訪問したが、緊張して会話が続かなくなった。このままではいけない、とにかく抱いてもらおうと裸になろうとしたが、途中で恥ずかしくなってとうとう逃げ出してしまった、こういうことらしい。
「ということは、姫様も、翔太くんのことが好きなの?」
葵姫が小さく、でもはっきりと頷いた。
なんだ、葵姫も私たちと一緒か。
それにしても、やることが、私のあの一夜といい勝負?くらいに常軌を逸している。
いけ好かない姫と思っていたけど、俄然親近感がわいてきて、姫のことがかわいく思えて来た
私は妹たちに集合をかけた。
いつもの通り愛姫が議事進行役を務め、ミーティングが始まった。
まずは、私が事情をかいつまんで説明し、改めて葵姫に確認した。
「ここまでやるからには、翔太くんのこと、本気で好きなんだよね」
頷く葵姫。
「うーん、強力なライバルが出現したな」と星姫
「私は姉さまたちをライバルだなんて思ってない。翔太さまのことが大好きな仲間だと思っているよ」と菫姫。
私も、まあ、同感である。
白熱した議論になりそうにないのを見て取った愛姫が多数決を採った。
「それでは、葵姫様を私たちの仲間とすることに賛成の方は挙手をお願いします」
三名の手が上がった。反対者はなし。
「ところで姫様、服はどうされたの?」と菫姫。
「あ、翔太様の部屋で脱いだままだ」
それじゃ皆で取りに行こうかということになった。
勝手知ったる翔太くんの部屋だ。それぞれが思い思いに翔太くんに話しかける中、葵姫だけが黙ったままだ。
「葵姫も話しなよ」と投げかけると、
「私はっ、皆みたいに、話すことも、ないから」と下を向いてしまった。
「無理することはないですよ。姫様が好きなこと、話せることを話してくれれば」と 翔太くん、優しい。
「何でもどうぞ」
「石垣のことなら」ようやく葵姫が口を開いた。
「石垣って、お城とかの石垣のこと? 面白そうだね、話して聞かせて」
「一口に石垣と言ってもいろいろあってね、戦国時代はお城は要塞的な役割が強かったから、石垣も実用本位で、天然の石をそのまま使った野面積みという手法が取られていたの…」
石垣の話を始めると、葵姫は急に饒舌になった。
「今の大阪城は、この王宮と同様で、戦国時代が終わってからトクガワ家が建てたものだから、切り石が整然と積まれているけど、発掘調査で出て来たトヨトミ時代の石垣は、全然違う野面積みだったんだよ」
一心不乱に石垣の話を続ける葵姫、彼女を残して私たちはそっと彼の部屋を退出した。
外に出ると、私は彼女のスマホにメッセージを送った。
「今夜は、あなたに塩を送ります」
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