武道大会:崩壊の咆哮








鐘の音が鳴り終わった直後──空が割れた。


 


「……っ!? なに……!?」


 


青空に突然、亀裂のような黒い裂け目が生じる。

そこから、灼けつくような“竜の咆哮”が響き渡った。


 


観客たちが悲鳴を上げるよりも早く、

巨大な影が天を覆うようにして、武道場の中心へと降臨する。


 


**上位種・紅蓮竜(ぐれんりゅう)グラドアーク。**


 


大陸全土の冒険者ギルドでも“討伐不能”とされる禁忌の竜が、なぜか今、この場に──。


 


「退避! 全員退避を──!」


指揮官が叫ぶが、間に合わない。


突如、観客席に向かって放たれた炎の一閃が、魔術障壁を焼き尽くす。


 


(なぜ……ドラゴンがここに!?)


アレンは直感的に気づく。


この竜──**ただの暴走個体ではない。狙いがある**。


 


 


「……っ! アリシア様を守れ!」


騎士団が駆け寄るその時──竜の口が、彼女の方向へ向けられた。


それは“偶然”ではなかった。


 


「アリシア、下がれ!」


ジークが咄嗟に氷の結界を展開するが、それすら竜の一撃で砕かれる。


 


──ズガァアアァアァン!


 


地面が吹き飛び、アリシアの身体が宙を舞う。


 


「ぐっ……!」


彼女はすんでのところで魔法で体勢を立て直すが、明らかにターゲットにされている。


 


(……この攻撃は、狙ってる。私を……?)


 


そして次の瞬間──


 


「“帝国より、祝砲を込めて”──といったところか」


竜の背から、黒衣の男が降り立った。


その肌は褐色、目元は帝国兵特有の刺青。そしてその胸元には、**帝国魔導軍・黒龍部隊**の紋章が刻まれていた。


 


「アリシア・グランベルト──王国の“魔導炉計画”の要。

 ……君には、ここで退場してもらう」


 


アリシアの瞳が揺れる。


「……魔導炉計画は、機密中の機密。なぜ帝国が──!」


 


男が冷笑する。


「“なぜ”って? それが、戦争の始まりに相応しい理由だろう」


 


直後、再び紅蓮竜が咆哮する。周囲の騎士団が次々と薙ぎ払われる中──


 


ジークが前に出た。


「お前……アリシアを狙うなら、俺が斬る」


そしてもう一人──


爆煙の中から立ち上がる影。


折れた剣を握るアレンだった。


「……数の差も、格の差も……関係ない」


「敵が帝国だろうが、ドラゴンだろうが──

 **今度は、誰も殺させないって決めたんだ!**」


 


二人の剣士が、並び立つ。


冷たく鋭い氷の刃、燃え上がる炎の意思。


 


「アレン・ヴァルト。共闘は一度きりだ」


「それで十分だ、“氷刃のジーク”」


 


 


──最強の竜を前に、少年たちの剣が、世界の境界を裂く。


王国と帝国、そして“隠された戦争”が、ここから始まる。


 


> 「この大会が、“剣の祭典”だと思ったか?

>   いいや──これは、“開戦の号砲”だ!」


 


つづく──!

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