――視点:王立武術学園・教官 マルセロ





 


──あり得ない。これは、夢か幻か。


 


「紅蓮竜(グラドアーク)……ッ! これは王国軍でも“討伐不能”と記録された災厄の竜……!」


マルセロは眼前の現実を、何度も疑った。


爆炎。瓦礫。逃げ惑う生徒たち。


騎士団の精鋭でさえ、まともに近づけず、ただ防御に徹するしかできていない。


それも当然だった。相手は人類の頂点を超える“竜”なのだから。


 


(……なぜ、こんなものがこの学園に……!?)


 


守りたい生徒たちがいる。


だが、今の自分には、この巨獣を止める力はない。


……そう諦めかけたそのときだった。


 


「……アレン……ヴァルト?」


瓦礫の中、剣を手に立つ少年がいた。


 


その背には、凄絶な気配を纏った“氷の剣士”ジーク。


 


(馬鹿な……!)


(あれは、教官陣ですらまともに動けない相手だぞ!?)


だが──


次の瞬間、マルセロの目に焼きついたのは。


 


**少年ふたりが、紅蓮竜の顎へ、真っ向から飛び込む姿だった。**


 


「“凍てよ、絶界氷牙――!”」


ジークが唱えた魔術は、竜の爪を凍てつかせ、機動を鈍らせる。


そのわずかな隙を見逃さず、アレンが突き込む。


 


「──《刃焔断(じんえんだん)》!」


 


折れた剣から、もうもうと吹き上がる炎の斬撃。


竜の頸部を切り裂く閃光が走る。硬質の鱗が砕け、灼熱の悲鳴が場を包んだ。


 


生徒たちが、見ていた。教官たちも、見ていた。


誰もが“逃げる”しかなかったあの化け物を、たったふたりの少年が──追い詰めていた。


 


「な、なんだあの動き……! ジークだけじゃない、もう一人……あれが……アレンだと!?」


マルセロの声が震える。


あの少年は、確かに落ちこぼれ扱いされ、誰の注目も浴びていなかったはずだ。


だが今。


 


その背は、確かに“英雄”のそれだった。


 


「援護に回れ! 魔術障壁を再展開! あのふたりに“戦場”を預けろ!」


 


マルセロは叫んだ。


戦う意味を思い出したかのように、教官たちが再び立ち上がる。


生徒たちも、目を見開いたまま拳を握る。


 


(そうか……君は、ただの生徒じゃなかった)


(あの日、入学試験で見せた“目”。あれは、戦場に立つ覚悟を持つ者の光だった)


 


 


──紅蓮竜が、咆哮と共に暴れ狂う。


地が割れ、空が焼ける。


それでも。


 


ふたりの剣士は、一歩も引かない。


 


「こっちだよ、トカゲ野郎!」


「アレン、上だ! 息を合わせろ!」


 


まるで長年の戦友のように、互いの隙を補い、動きを読む。


 


――そしてマルセロは確信する。


この日、この場、この一瞬。


“伝説のはじまり”に、自分は立ち会っているのだと。


 


 


> 「この時、誰もが思った。

>  “彼らなら、あるいは”と――」

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