名もなき剣、戦場に立つ
鐘の音が空高く鳴り響く。
武道大会――その第一戦が、ついに幕を開けた。
「第一ブロック、参加者50名、戦場:中層訓練場、**バトルロイヤル形式**。勝者一名、生存条件は“最後の一人となること”」
観客席がざわつく。例年の個人戦ではない、混沌とした乱戦が始まるとあって、期待と興奮の入り混じった空気が訓練場を包んでいた。
そして、戦場となる広大なフィールドには、次々と生徒たちが配置されていく。
アレン・ヴァルトの名が呼ばれても、誰も注目することはなかった。
(……ちょうどいい。注目されるのは、結果を出してからでいい)
アレンはひとり、群れの隅に立った。
円形の戦場に広がる50名の猛者たち――その中には貴族階級の剣士、選定者クラスの上位陣、そして他国からの留学生の姿もあった。
「おい、あの坊主。どこクラスだ?」
「知らねぇ。たぶん一般枠だろ。てか、武器しょぼくね?」
「ははっ、最初の餌食かもな」
戦場に満ちる敵意と侮りの視線。
それでもアレンは、一歩も動かず、ただ静かに剣を背から抜いた。
合図の鐘が鳴った――
──ドッ!
爆音のような殺気と魔力が、一斉に迸る。
各地で小規模な乱戦が始まり、誰が敵で誰が味方かも曖昧な混沌が生まれる中、
その“中心”に、**異様な静寂**があった。
「……な、なんだ?」
一人の少年が、異変に気づいた。
同時に、空気が重く沈む。
“アレン・ヴァルトの周囲だけ”、誰も近づけない。
まるで“殺気”ではない、“沈黙”という圧で領域を支配していた。
「ちょ、ちょっと待て、アイツ動いたか?」
次の瞬間、視認不能の移動。
まばたき一つの間に、3人が吹き飛ばされていた。
「なっ……!? いつの間に背後を──」
「クソッ、避け……」
──ギンッ!
金属の摩擦音。誰かの武器が空を切り、そのまま両断される。
斬られた者は全員、失神または戦闘不能判定で即退場。
その速度は、“見える者”にさえ理解が追いつかない。
(……なんだ、この違和感……剣筋が“視えた”のに、回避できなかった……!?)
選定者上位の一人が叫ぶ間もなく吹き飛ぶ。
そこからは、もはや“狩り”だった。
「ば、化け物……!」
「集まって倒せ!囲めば──!」
一時、十数名の生徒が連携し、アレンを取り囲む。
魔法の支援と同時に、四方からの同時攻撃――
だが、アレンの瞳がわずかに光を帯びた瞬間。
《継炎剣・刃輪》
“剣気の輪”が地を駆ける。
地面を抉るような軌道が複数の敵をまとめて薙ぎ払い、逃れた者さえ立っていられない。
「信じられない……こいつ一人で、二十人は倒してるぞ……!」
「誰だよ、アレ……!?」
敵が減るたび、アレンの存在が“孤立”ではなく、“頂点”として浮かび上がっていく。
観客席にいたディオが小さく息を呑んだ。
「……強い。あの日の比じゃない……君、本当に“変わった”んだね」
ルード・グラッセンの眉もわずかに動いた。
「……ほう。名も知らぬ下層の雑種が、あそこまで……」
だが、その目に宿るのは侮蔑ではなかった。
――明確な“警戒”だった。
戦場には、もはや5人しか残っていなかった。
それでも、誰もアレンに近づけなかった。
(この戦場にいる者たちと、俺の目指す場所は違う)
アレンはただ一人、最後の敵に向けて歩き出す。
「ここで止まるつもりはない。だから――」
その一太刀が、静かに、だが絶対的な強さで“最後の敵”を倒す。
──試合、終了。
観客席の沈黙。やがてそれが、爆発的なざわめきに変わる。
「アレン・ヴァルト……!あの名は……!」
「何者だ、あの剣士……!」
「今の勝者、正規枠じゃなかったよな!?」
彼の名は、ようやく世界に“見つかった”。
そして、それは始まりにすぎなかった。
アレン・ヴァルト。
名もなき剣士が、“剣の頂”への道を切り開く第一歩を、確かに刻んだ――。
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