選ばれし者、そして追う者
ある日、村に王都から派遣された〈鑑定師〉が訪れるという噂が広がった。
「スキル鑑定、だってさ。何だかすごそうだな」
「俺も一回やってみてぇなあ……」
村人たちは興味津々で集まり、順番を待っている。
ミナも例に漏れず、友人に誘われて列に並んでいた。
「アレンも来ればよかったのに。こんな機会、めったにないのにさ」
「いや、いいよ。俺は……今は、まだその資格がない」
そう言って背を向けたアレンだったが――
それからすぐ、村の広場がどよめきに包まれた。
「で、出たぞ!Sランク適性だって!」
「なんと称号は……“剣聖”!?」
その言葉を聞いた瞬間、アレンの心臓が強く跳ねた。
(剣聖……? まさか)
彼は思わず広場へ駆け戻る。
そして、視線の先にいたのは――
戸惑いながらも、ほんの少し誇らしげに笑うミナの姿だった。
「ま、待て、ミナ……! 今の、本当なのか?」
「うん……私、〈剣聖〉の資質があるって。自分でも信じられないけど」
彼女はそっと手を握りしめる。その手は、微かに震えていた。
「すごいじゃないか……!」
アレンは心からそう言った。だが同時に、自分の中の感情が複雑に揺れ動いていることにも気づいた。
(あのとき、俺が持っていた“英雄”の力……それを、今度は彼女が)
喜ばしいはずの出来事なのに、胸の奥に小さな焦りが生まれていた。
だが――それでも。
「……俺も、追いついてみせる。いや、追い越すくらいじゃないと……、お前を守れないからな」
「えっ……?」
ミナが驚いたようにアレンを見上げる。
アレンは笑った。照れ隠しのように、少しだけ不器用に。
「本気だよ。俺はもう、誰かに助けられる側でいるつもりはない。復讐だって、誰かに任せる気はない。……でも、それ以上に、あんたと肩を並べて歩きたい」
「……うん。私も、アレンと一緒に戦いたい」
二人の心が、少しだけ近づいた瞬間だった。
だがそのとき、遠くの空に黒い煙が上がった。
新たな運命の扉が、音もなく開かれようとしていた。
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