第21話 虎柄に魅了されて

「わぁ~もっさもさだねぇご主人」


「最近は忙しくて床屋にも行けてなかったからなぁ」


イラストの仕事続きで中々髪を切る事が出来なかった俺の髪は伸びに伸びていた。


「今日は暇だし切りに行くか」


「またおんなじ床屋ぁ?」


ふむ、どうしたものか。別に前と同じ床屋でも良いんだが、美容院にも行ってみたい。


「よし、今回は床屋じゃなくて美容院に行くか」


俺といなりは街中を練り歩き、良さげな美容院を探していた。


「どこにしようか…お、こことかめっちゃお洒落だな!」


俺達は目についたお洒落な美容院の前で足を止めた。


「いらっしゃいー!」


中に入るとメスの虎獣人がお出迎えしてくれた。


「この店は初めてだよね?じゃーこれ書いて!」


凄くフレンドリーな人だな。渡されたのは質問カードのようなもので、いろいろと書く項目があった。


「カット希望…バチッとクールにorスラッとエレガント?なんだか面白いなこれ」


独特な質問項目を全て書き終え店員さんに渡すと、奥にある席に通された。


「本日はカット希望ですねー!あっ、狐さんはそこの雑誌とか読んでて良いですよ」


いなりは髪がないので切るものもなく、イスに座って雑誌を眺めていた。


「結構伸びてるねー、前カットしたのはどのくらい前?」


「ここん所忙しかったから…3ヶ月前とかですかね」


「そりゃ伸びる訳だ!こりゃカットしがいがあるねー」


店員さんはカットしている最中ずっと話しかけてくれて、全く退屈しなかった。


「ちょっと首を前に…そそっ」


おしゃべりだけど凄い丁寧にカットしてくれるな…ん?


なんだ、この首もとに感じる柔らかい感触は…


むっ、胸っっっっ!


そういえば結構デカめだったよな…というかこんな近寄らないとカット出来ないのか!?


危ない危ない、油断すると鼻血が出そうだ。


「お兄さん、顔は怖いけど結構整ってるね!彼女さんとかいる?」


「いや~それがまだ出来たことなくて」


「ホントに!?意外だねーこんなにいい顔してるのに」


えらい褒めてくれるな。なんだ、もしかしてワンチャンあるか?これは…俺もそれとなく口説けばワンチャンあ――――――


「まーあたしも結婚まで大変だったけどさ、お兄さんも頑張りなね!」


結婚してるのかよ!!そうだよなぁ!こんだけ美人で胸がでか…いやいや、官能的な人に旦那がいないわけ…


「あ、もしかしてがっかりしちゃった?ごめんねーでも気持ちはうれしーよ♪」


俺の恋心が読まれてる!いや違うし…ちょっと綺麗だなって思ってただけで恋とはちげぇし…


「じゃあそんなお兄さんにはここをオススメしようかな」


そう言うと俺にスナックのショップカードを渡してきた。


「これは?」


「スナック虎の穴、あたしが働いてるスナックだよ!まー副業でやってるけど…結構楽しいとこだよ?」


急に耳元でそう囁く。声色がやけに色っぽく、相変わらず胸を押し付けながら言ってきたので俺の頭はピンクな妄想で埋めつくされていた。


「よし、カット終わり!じゃー良かったら来てね♪」


会計を済ませ店を出た後も、俺は歩きながらずっとショップカードを見ていた。


「スナック虎の穴か…なぁんかいやらしい雰囲気がするんだけど。行くの?ご主人」


いなりがじぃーっと見つめてくる。嫉妬深いいなりのことだからな、こんなところに行ったら最後…半殺しじゃ済まないっ。


「いや行かねぇって!俺には大事ないなりがいるんだ、そんないかがわしい店――――」


来てしまった――――


まずいよぉ来てしまったよぉ!だってしょうがねぇだろ!あんな美人な虎獣人がやってるスナックだ。


きっとチップを弾めばあんなことやこんなことが…


いかんいかん。ここには純粋にスナックを楽しもうという気持ちで来てるんだ!ちなみにいなりは家で待つことになったが散々警告された。


(こういうお店は誘惑に負けたら最後!財布が空になるまで搾られちゃうんだからっ。くじけそうになったらボクを思い出してね♡)


あぁ大丈夫だいなり、俺はちょっとやそっとの誘惑なんかには負けない。


あの人には悪いが、今夜はあまり長居しな―――


「やほーみんな!元気してる?」


だぷんっ


なっ、なんっだあの弾力の暴力は!!?!?


衣装がいかがわしすぎる…甘美な谷間が丸見えじゃねぇかっっっ


「あ、お兄さん来てくれたんだー!あたしこと茜、今夜はお兄さん楽しませちゃうね♪」


お、俺は今夜…最後まで理性を保つことが出来るのか…?


と言っても茜さんが来たのは最初だけで、ほとんどの時間は常連さんの横でお酒をついでいた。


まぁ全然楽しいしお酒も美味いから良いんだが、なんか思ってたのと違うというか…


「お兄さん楽しんでるー?構ってあげれなくてごめんねー」


茜さんが急に横に座って距離を詰めてくる。まずい、視線が胸にしかいかないっ!深呼吸するんだ…すぅーはぁーぁあいい匂い!


駄目だ、このままじゃ誘惑に負けてしまう。しっかり理性を保て、自分を鼓舞しろ!


というか茜さん、結構酔ってるみたいだな?この店は店側も呑む店なのか。


「お兄さん緊張してるー?もしかしてこういう店初めて?大丈夫だよーそんな堅くならなくても」


"こういう店"?どういう意味だ?


店の雰囲気、茜さんの華美な衣装と言い虎の穴という店の名前…ま、まさかっっっ!


ここは"そういう店"だって言うのかーー!!


「お兄さんが良ければさー…これ試してみない?ちょっと高いけど、その分楽しませたげるからさー♡」


そう言いながら茜さんはメニューを指差す。


「虎の温もり:4000円」?


…これは、まさかのまさか本当にそういうサービスなんじゃ!?


「んー迷ってる感じ?じゃー…初回無料で触らせてあげる♡」


触らせてあげる?いっ良いのか!?それはつまり、目の前のたわわを…触って良いってことなのか!?!?


虎の温もり…良いのか??良いのか温もり感じて!?


「ここじゃ恥ずいなー、奥の部屋行こ」


そう言うと俺の腕を引っ張って茜さんは俺を奥の部屋まで連れて行く。


ちゃんと考えろ俺…俺にはいなりがいるんだ!こんな、こんないかがわしい事をして良いわけがない。


今ならまだ間に合う、勇気を持って遠慮するんだ!


「んふっ♡じゃー触らせてあげる」


や、やばい!俺が女性の胸を触るなんてそんn―


「はいどーぞ、肉球触って良いよ♡」


「……へ?」


「あれ、刺激強すぎた?良いよー好きに触って、あったかいよ?」


……


肉球かよっっっ!!!


「なんだ肉球か…俺、てっきりそういうあれだと…」


「んー?あっもしかしてそういう想像してた?ごめんごめん!うちの店はそういうのしてなくてさー、あたしちゃんと旦那いるし」


そりゃあそうか…なんか、さっきまで焦ってた俺が酷く滑稽に思えてきた。


「でも店の名前は…」


「名前?あれは正直言うとつりだね!あたしの穴は旦那だけの物だもん」


「は、はは…」


それから帰るまでの記憶はほとんどない。


酒が入っていたからではなく、それとは別のなにかしらのせいだろう。


「はっご主人お帰り!!どうだった!?シてないよね!!?」


「いなり…俺は、とんだ変態野郎だ…」


「え、それってどういう…シちゃったの!?まさかホントにっ??!?うわあぁぁぁん!ご主人のバカぁ!!」


いなりが肉球でビンタしてきたが、これは神から俺への当て付けなのだろうか。


虎の穴…色々な意味でとんでもない店だった。


こうして虎柄に魅了された夜は終わり、いなりの誤解を解くのには2日もかかったとさ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コンな毎日が良い! ていぽん @teipon475

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ