第14話 出会い
「ねぇご主人!このスイーツ店のスイーツバイキング行こうよぉ」
「わりぃ、今は無理なんだよ。納期が間に合うかわかんねぇ依頼があるんだ」
いなりには悪いが今回ばかりはいけない。納期を守らないイラストレーターだなんて噂が広まったら、プロとしての信頼と実績を失ってしまう。
「つうわけだから、今日は一人で行ってきてくれ。お金は渡しとくからさ」
「うぅ……分かったよぉ。でも今度は絶対ご主人も一緒だよ?お土産もたっくさん買ってくるからね!」
「そりゃ嬉しいがそれ俺の金だぞ」
そんなこんなで、いなりは一人でバイキングに行ってしまった。
自分から選んだ選択肢だが、いなりがいないとかなり寂しいな。
いなりと出会ってからは、一緒にいないことなんてほぼ無かったし…
違う違う、俺は依頼を終わらせなきゃいけないんだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
しばらく仕事に打ち込むと思ったよか早く終わってしまった。
「ま、間に合ったぁ。正直、今回はもうダメかと思ってたわ…」
というわけで、想定より仕事が早く終わったため、俺は逆に暇になっていた。
「今からいなりの行ったスイーツ店に行きたいが、場所を聞いてなかったしなぁ」
しょうがないんで、俺は町に出て暇を潰すことにした。
「いなりからスイーツの話を聞いてたら俺もスイーツが食べたくなってきたな」
気づくと俺は静かなカフェ店に入っていた。
静かな反面かなり繁盛してるみたいだなぁ。これ俺入れるか?
「お一人様ですね…申し訳ないのですが、今のお時間ですと相席になってしまいます」
「あ、大丈夫ですよ」
そう言うと奥のこじんまりしたテーブル席に通された。
そこには、下を俯いてスマホをいじってる(恐らくオスの猫獣人)が座っていた。
俺が席に座っても、その獣人は何も気にしない。なんだ、この冷ややかな空気感は…というかこの獣人は神様だよな?
しれっといるけど、神界から来たやつってことで間違いないよな。
そういえば店の中、ふつーに神様がいるな…なんか人間の俺よりこの店に馴染んでる気がする。
というかこの獣人、目こそ合わないもののこちらをあまり良く思っていないことがなんとなく分かるような…考えすぎか?
「…あのさ」
あ、話しかけてきた。
「俺、相席良いなんて言ってないんだけど」
「えっあ、悪いな…」
え、俺が悪い?あの店員さんがてっきり言ってくれてるものだと…いや、これも俺の配慮不足か
「ま、まぁこうして相席になったのも何かの縁だ。そんなに毛嫌いしなくても良いんじゃないのか」
「…なにかと取って付けて縁とか言う人苦手」
くうぅぅーーっ冷たい!流石に冷たすぎるぞこの子!
見た目は結構幼めなのに、言動や表情がひねくれた大人のそれなんだが…?
「何ナンパ?俺一応オスなんだけど」
「いやっ、ちげぇって!ただその、えっと…」
いやいや俺はいなり一筋!いくらこの子が可愛いからってオス猫をナンパしたりしないって!
まぁ確かに、この子はナンパされてもおかしくないくらい可愛い。
藍色と青のショートカット、細い目にかなりのジト目…正直ちょっとキツイ顔はしているが、俺からしたら可愛いもんだ。
「ごめんな不快な思いさせて。席変えるよ」
「…いや、そこまではしなくて良いよ。お兄さん、こんだけ突き放してるのによく優しく出来るよね」
お、ちょっと表情が柔らかくなったか?
「俺は突き放されるのは慣れてるからなぁ、あと、俺の優しさは大概偽善だから警戒しとけよ」
ひねくれたやつにはひねくれた対応…我ながらおかしいやつ認定されそうでちょっと怖いな。
「そうかな…お兄さんはなんか、他のやつらとは違う目をしてる」
「不思議なことを言うやつだな。俺が本当に優しいかどうかなんて分かんないだろ?」
「…それはそうだけど」
なんか滅茶苦茶俺に可能性を見いだしてくれてるな。俺も本当の善人だったら堂々と振る舞えるんだけどな…
「…じゃあ、お兄さんが優しいかどうか俺が試すよ」
そう言うとその子は、カバンからなにやら瓶を取り出してテーブルに置いた。
「この匂いを当ててみて」
「これは…香水か?」
なんの匂いかを当てるのか…鼻には少し自信があるが、それで俺が優しいかが分かるものなのか?
「スンスン…ん、なんだっけこれ。マタタビか?お前ら猫獣人が好きな」
「……ふん、ちょっとは賢いみたいだね」
じゃあこれはと言いながら、その子はまた別の瓶を取り出した。
「えと、コスモス…?花はあんまり詳しくないぞ」
「それはラベンダー…まぁ、悪くない答えだね」
試されてる?一体なにをさせられてるんだ俺は…
「別にこの問題自体に意味はない。ただ、お兄さんが嫌な顔をしないで付き合ってくれるか試しただけだよ…お兄さんは俺に興味があるんでしょ?じゃなきゃわざわざ話しかけてこない」
ほんの少しだが、その子の心の扉が開いた気がした。
「…俺は昔ネズミを飼ってた。大切にしてたけど、最後は病気で死んじゃった。友達も家族もいないから、その子だけが俺の宝物だったんだ。ほら、俺は話したよ、お兄さんも何か教えてよ」
この子は普通の会話が出来ないのかっ、急にそんな暗い過去話されてもなんて返したら良いのか…
うん、よし。俺も少し暗い過去で返すとするか。
「俺はガキの頃に親友に裏切られていじめられて、誰も信じられなくなった。親は俺に無関心で、何をされたわけでもないが、逆にそれが寂しかったな」
「…少し意外だね。ちょっとだけど、俺と似てるものを感じる」
その子は少し悲しい顔をしたがすぐに表情が戻った。
「確かにお兄さんは悪い人ではないみたいだね。…でも、信じるにはまだ…い…」
「ん、何か言ったか?」
「…別に」
この子はひねくれてるというより、心に闇を抱えてる感じがする。俺がそうだから、そう言うことは分かってやれる気がするんだ。
「というか、お前は匂いが好きなんだな?服からもほんのりいい匂いがするし」
そう言うとその子は顔を上げた。
「カーネーションの匂いに似てるな…なんか落ち着く匂いで良いな」
その子はハッとして、初めて俺の目を見てくれた。
「…カーネーションは、ネズミが好きな匂いなんだ。飼ってたネズミも、この匂いが好きだった」
…この子は、こんなに穏やかな表情が出来る子だったんだな。
「ん?あれっ、外土砂降りじゃねぇかよ!傘持ってねぇのに、ったく」
「…店を出るの?」
「あぁ…そう言えばお前は神様だろ?こっちの世界に家なんてあるのか?」
「…」
あぁこれは、無さそうだな。
「…こっちには来たばっかりだから、家も居場所もない…」
「やっぱりなぁ、そだっ、俺の家で雨宿りしてけよ。変なとこ行くよかまだ俺の家の方がマシだと思うぜ」
「……んん…じゃあ、行くよ」
俺達は走って家に向かった。ビシャビシャになりながら走るのは子供以来だったから、少し楽しい気がする。
なんだかこの子との出会いは、不思議な感覚になることが多いな。
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