第13話 世界のミキサー

ぶっ飛んだお見合いは幕を閉じ、いなりの記憶も無事戻った。


スミはあの後ぶつぶつ文句を良いながら神界に帰っていった。


「すまんかったのいなり、この短期間でお主とゆうととの間に絆が出来ていたとは知らなくての…」


「だとしても酷すぎだよ!もうっ、当分家には帰らないからね!」


「なっ、それは酷いのじゃ!いなりにはもっと顔を見せて欲しいのに…」


…ツキさんて、思ったより親バカなのか?


「してゆうとよ、契約の話じゃ」


「は、はい」


なんだ、この期に及んでまだ何か企んで…?


「お見合いの結果としては、いなりがゆうとを選び、主従関係は崩れることなく終わった。まぁ、妾の負けじゃな」


ふぅーびっくりしたっ!!なんか屁理屈とか使ってまた俺を狙ってくるのかと思ったわ…


「じゃが…いなり、妾がお主とゆうとの仲を裂こうとした本当の理由を知っておるか?」


「え、それは母上がご主人に一目惚れして自分の物にしようとしたから…あでっ!」


「たわけ!わ、妾がそんな破廉恥な理由で動くものか!まぁ、確かにゆうとは色男じゃが…」


そこ否定してぇのかよ!?


「本当は、妾はゆうとが心配で来たのじゃ」


俺のことを?なんで全く面識のない俺を心配なんて


「面識はない者への心配は無意味か?」


「そんなことはないっすけど…てか、やっぱり俺の心読んでますよね」


「話を戻すが、妾はいなりが十分に従者の役目を果たせているかどうかが不安なのじゃ」


「うぐっ」


いなりが苦い顔をする、何か心当たりでもあるのだろうか?


「いなりは元々、ゆうとの闇を「癒す」という目的で人間界に来たはずじゃ…じゃがどうだ?狐器水晶玉からいなりの様子を見てみればぐうたらしてばかり!」


「うぐぐっ!」


「挙げ句の果てには主人であるゆうとに甘えているではないか!…これは心の闇を癒す以前の話ではないのか?」


「ぐっはぁーー!!!」


いなりはぐでーんと前に倒れ込む。別に俺はいなりがそばにいるだけで幸せだから良いんだが、確かに役目を果たせているかと言えば怪しいライン…


「その様子を見て心配になったのじゃ。いなりではゆうとの心の闇は癒せないのではないのかと思った。じゃから妾が来たのじゃ」


なるほど、力が不十分ないなりには役目は果たせないと思い、代わりに自ら俺を癒そうとしてくれた…思ったより良い狐みたいだな。


「まぁその話はもう良い、いなりはきちんとゆうとを癒せているみたいじゃからの」


「そうだよ母上!ボクがご主人にハグするとね、10キロくらいの闇も瞬く間に全部消えちゃうんだから!」


「俺10キロの闇を背負ってたのか!?」


心に闇があることは知っていたが、キロ換算で話されると余計に重く感じるな。


「あと、妾が来たもうひとつの目的じゃ。さきほど話したように、本来繋がることのない人間界と神界が繋がっておるのじゃ」


確か最初に言ってたよな、世界が繋がる…ただ事じゃないのは分かるがあまり実感が沸かないな。


「世界が繋がるとどうなるんすか?」


「そこじゃ、世界が繋がることによって、神界から神が自由に人間界に来れてしまうのじゃ」


「えぇっ!」


なるほど、そりゃ困るわけだ。無数の神様が人間界に来る…考えただけで怖くなってくる。


「何ゆえ世界が繋がったのか調べに来たのじゃが…中々分かることが無くてのう」


ピンポーン


話しているとインターホンが鳴る。


「おっと、すんません俺出てきます」


玄関に行き、ドアを開けるとピザの配達員がいた。


「ご注文の品、届けに来たにゃ!」


「え、すみません、頼んでないんですけど」


「あっえっ!ごめんなさいにゃ!間違えちゃったにゃ…」


んぅ?なぁんか聞き覚えのある声だな。


俺は帽子の下から配達員の顔を覗いた。


「…黒夜!?」


「えっ、ゆうとさん!?あ、あのあの…あの、ごめんなさいにゃーー!」


「ゔぇ!?」


黒夜も俺に気づくと、また大声で謝り始めた。


「騒がしいのぉ、なにごとじゃ?」


黒夜を居間に通してみんなで机を囲む。


「久しぶり黒夜!こっちの世界来れてたんだねぇ」


「なんじゃこの子猫は?終始挙動不審ではないか」


「あっ、えっと…にゃぁ…」


黒夜はずっと落ち着きがないし、会話の歯切れが極端に悪い。


「何かあったのか?ゆっくりで良いから聞かせてくれ」


「は、はいですにゃ…」


黒夜はゆっくりと話し始めた。


「あの後僕は、あの懐中時計を使ってこの世界に来たんだにゃ。でも…その時僕、「自由に世界の行き来が出来るようになる」って願ったんだにゃ…」


一見聞いてみると普通のことだが、何かおかしいのか?


「…!まさかお主っ、お主のせいで世界が繋がってしまったのか!?」


「えぇーーーっ!!」


そんなまさか、たったひとつの願いで世界が繋がるなんて…ちょっと簡単すぎやしないか??


「待ってくれ、あの懐中時計は確かに常識改変をする力があった。でも、あれひとつで、しかもひとりの思いで世界を繋げるほどの力が発揮されるなんて思えない」


「…聞いたことがあるのじゃ。神界には実際常識改変が出来る道具が複数あると聞く。その中でも、願いの強さに比例して改変範囲が広がる物もあるのじゃとか」


おいおいおい、じゃあ黒夜の人間界に行きたいと願う力が強すぎて世界が繋がったって言うのか?滅茶苦茶だろ!


「ごめんなさいにゃ…こんにゃ、こんなことになるなんて思っても無くて…」


「まぁ…なっちまったもんは仕方ねぇだろ、な?いなり」


「そうだよぉ、そんなにくよくよしてると可愛い顔が台無し!」


みんなで黒夜を落ち着かせるが、これが異常事態であることに変わりはない。


「世界が繋がったってことは、こっちの人間も神界に自由に行けるってこと?」


「それは考えたにくいじゃろうな。飽くまで世界を繋げる改変をした場所は神界じゃから、自由に行き来出来るのは妾たち神様だけじゃ」


なんとも都合の良い…でも、欲深い人類が神界に行けるようになったらどうなってたか、まだこれでもマシな状況なのかもな。


「黒夜と言ったか?お主、もうひとつ常識改変をしたじゃろ」


「…したにゃ、「神が人間界にいることは普通」って…」


「はぁ、どうりで。こっちの世界に来る途中うっかり人間に姿を見られたのじゃが気にも止めていなかったから、何かおかしいとは思っていたんじゃ」


迂闊すぎだるぉっ!


「…ふむ、本来そこそこ偉い妾が黒夜を滅するべきなのじゃが、それも憚れるほどにお主は反省をしてるようじゃの。次はないぞ」


ツキさんは黒夜の額に軽くデコピンをして立ち上がる。


「ずっと気にしていたって仕方あるまい、世界が繋がった記念に宴でも開こうではないか!」


「わぁい宴だぁ!」


「へっ?」


言うとツキさんといなりはお酒や料理などの準備をし始めた。


「ちょちょ、いなり!お前までそんな宴だなんて、今がどんだけヤバい状況か分かって…」


「んぅ~まぁ良いんじゃない?あっちの世界の神様たちも、悪い神はあんまりいないし」


あんまり?


「それにぃ、悪い神様が押し寄せてきてもボクがご主人を守ったげる!そしてご主人にナデナデしてもらうぅ~♪」


全くこいつは、いつも能天気だなぁ…


「それに…あの最悪なお見合いの空気を壊したいの!まともに味覚えてないし、ご主人の料理ももっといっぱい食べたい!」


「お前ってやつは…ったく」


「キャッハハァ♡くすぐったいよぉご主人~」


「こ、これっ!あんまりいちゃつくでないぞ!羨ましくなるではないか…」


その日は朝から晩まで、4人で楽しく宴を堪能したよ。


あんなクソみてぇなお見合いはもう二度とごめんだけど、みんなのお陰で楽しい空気が、またこの家に戻ってきたよ。






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