第14話閑話もしくは助走をつけて

前回までのあらすじ

英利さんが知り合いだった。


文化祭・漫研のお店

部活の出店では五十嵐先生が店番をしていた。

「遅いぞぉ~」

「ごめんなさい」

ふと思ったが、この二日間教室では先生の姿を見たことがないが果たして大丈夫だろうか?

そんなことを考えながらとりあえず店の裏側に荷物を置く。

先生はこちらに何とも言えない目を向けながら言う。

「またか?君も好きだねそういうの。別にいいけどさぁ」


少し考えた後、私が両手に持っている大量のお菓子のことを言っているのだと理解する。

「食べます「ロンモチ」

そして私は五十嵐先生に、いやお菓子を頬張っている叔父さんに気になったことを尋ねることにした。

「黒金さんについて叔父さんは知ってましたか?」

「黒金さん?同じクラスの?成績いいよね。確かこの前の模試でも火鳥さんと並んでこの高校ではぶっちぎりの成績だったはずだけど」

そう言いながらも叔父さんは次々とお菓子の個包装を開けていた。

お腹がすいているのだろうか?

「そういうことじゃなくて。彼女と私は幼いころによく遊んでたらしいんですよ。叔父さんは知ってましたか?」

そういうと叔父さんは何かに納得したようなどこか気の抜けた声を出す。


「あぁなんだそんなこと。うんもちろん知ってるよ。というか君が忘れてたことの方が私には驚きだけどね」

「それ黒金さん、じゃなかった、英利さんも言ってましたよ。そんなによく遊んでたんですか?」

「うん、やっぱりそっちの呼び方の方がしっくりくるね。そして質問の答えだけど、その通りだよ。正直火鳥さんと遊ぶ頻度はどっこいどっこいだったね。だからこそ私は君が忘れていると知った時は驚いたわけだけど」

意外だった。確かによく遊んでいた記憶はあったがそこまでだったとは。

「驚いた。と言いましたが私が忘れていたことをどうやって知ったんですか?私たち高校に入ってからはあまり話していなかった気がしますけど」

叔父さんは驚いたような顔でこちらを見た後呆れたようにため息をついて言う。


「本気で言ってる?向こうは君に何度も話しかけてたよ?正直忘れられてる黒金さんが見ていて気の毒になるぐらい」

そうだったんだ。だとすれば私はずっと黒金さんを傷つけていたことになるのだろうか。

・・・でも「知っていたなら教えてほしかったです」。

私は正直な気持ちを叔父さんに伝える。

叔父さんは軽く笑いながら「ごめんって。どう伝えていいかわかんなかったからさ。一度タイミングを逃すとそっからずるずると、ね」と言った。

「笑い事じゃないですよ」

「それはそうだね、・・・ごめんね」

この時間は誰もお客さんは来なかった。


その少し前・学校のグラウンド・キャンプファイアーのための薪の前

そこには老若男女問わず黒金、火鳥両勢力の中からこの文化祭に参加している者たちが集まれるだけ集まっていた。


その中央


そこには全身黒づくめの黒金家執事内藤がしゃがみこんで今作業を終えようとしていた。

「よしこれで完成だ」

そう言った内藤に質問をしたのは火鳥勢力の添島だ。

「これでいいのか?」

そんな添島の質問に内藤は自信と戸惑いが合わさった声で答える。

「あぁこれで任務は達成される」

添島は首を横に振ると「そういう意味じゃない。これは許されることなのか?こんな、こんなことが」と言った。その声には罪悪感がありありと出ていた。

内藤は立ち上がると添島の肩に手を置きながら言う。

「それは終わってから考えればいい。それとも他に代案があると?仮にあったとしてそれは今から準備して間に合うのか?」

添島はもう一度首を横に振る。

「ならば我々にはこれしかない。この道しか、ない」

最後の方で言葉を詰まらせたのはきっと本人だってそれに納得していないからだろう。

それほどまでにこの作戦は残酷だ。


正午・室隅達の教室

私たちがいつものメンバーで集まりご飯を食べていると「ねぇ、渡君。お昼ご飯、ご一緒してもいいですか?」

私達の所に黒金s・・・英利さんがそう言ってきた。

まだこの呼び方には少し違和感が残る。

「いいですよ。え、英利さん」

瞬間クラスがざわついた。

クラスのマドンナとほとんど接点のなかった私が親しげにしていたら、それは驚くのだろうが、それにしてもざわつき過ぎだと思った。

「お二人もそれで大丈夫ですか?」

そんな英利さんの問いかけに二人は

「だ、大丈夫でござるよ」

「私も大丈夫。むしろ大歓迎だよ~」

そう返した。

「ではお邪魔して」

そう言って彼女は私の隣に座った。

「いただきます」


そういって彼女が開けたお弁当は高校生が食べるものとは思えないようなものだった。


よくアニメなどで見る金持ちの高級食材を使った弁当ではなく、それぞれの品自体は私たち一般庶民の食べている物と変わらないのにそれが匠(?)の手によって全く別の物と化している。

ハンバーグはお弁当にありがちな萎びたものではなく、出来立てさながらに肉汁が出ていて黄金に輝いている。

他にも付け合わせのポテトもすごい。

そもそもお弁当のハンバーグにつけあわせがあること自体驚きだが語るべきなのはそこではない。

普通肉汁はお弁当であると仕切りがあっても他の食材に侵食するものだがポテトが見事に受け止め、それでいてポテトは一切見栄えが悪くなっていない。

他にも挙げればきりがないほどの魅力が二段の弁当箱の中に詰まり、しかも調和がとれていた。

彼女はその弁当の中から唐揚げのような物をこちらに出してきてこう言った。

「渡君、交換しません?」

「!!!」


衝撃だった。

彼女は弁当を作ったことがあるものなら驚嘆するような技術で作られた品を私の作ったありきたりな物と交換するかと聞いてきたのだ。

「もしかして、唐揚げは苦手でしたか?」

しばらく黙っている私を資本主義社会の破壊者英利さんは心配そうに見つめながらそう聞いてくる。

「い、いえそういうわけでは」

慌てて私は返事をする。

「ただ、交換できるような物を持っていないから」

そういった私に英利さんは笑顔でこう言った。

「そんなことないですよ。例えば、この卵焼きとかすごくおいしそうですよね。この唐揚げと交換でいいですか?」

私は頷いて交換をした。

早速唐揚げを食べてみる。


うまい。私の家で作った出来立てのものよりももしかしたら美味しいかもしれない。

もちろん上手くできたときはこれと並ぶ時もあるにはあるがこの味をお弁当では無理である。

そう考えていると英利さんの方でも卵焼きを食べる。

「ん~。美味しいですね、この卵焼き」

彼女は本当に嬉しそうに目を輝かせながらそう言う。

作った私も嬉しくなる。

「そうですか?頑張った甲斐がありました」

「もしかしてこれ渡君が作ったのですか?」

そのまま私たちは卵焼きの話で盛り上がった。


同クラス・別の場所

そこでは三人の少年が話していた。

天パの少年が言う。

「まさか、火鳥、アズマに続き黒金まであの距離感になるとは」

ロン毛の少年が言う。

「順当では?他の二人を見る限り、そろそろ彼女も動き出す頃合いだと私は思っていたでゲスよ」

体格のいいメガネが言う。

「それにしてもクラスは随分と騒ぎになっているのであるな」

ロン毛の少年は楽しそうに「そりゃあ、俺たちであれだけ室隅君とアズマさんについて騒いでおいて、ここにきて一番あり得ないと言われた室隅×黒金のカップリングも可能性が見えてきたんだ。これは今後相当荒れるぞ~」

そう言うと、天パの少年は周りをチラチラと見回した後、声を潜めて言う。

「そうなると今後気になるのは」

「火鳥さんの動向であるな」

火鳥×室隅推しの体格のいいメガネの少年は続ける。

中立のロン毛は二人に問う。

「この後室隅君って何か予定はあったっけ?」

それにアズマ×室隅推しの天パが答える。

「いや、もうシフトは入ってなかったはずだよ。ちなみに『三人も』ね」

体格メガネは野次馬根性丸出しで言う。

「であれば、また盛り上がるであるな」

野次馬根性ここに極まれりである。


同刻・クラスの片隅で

「お、落ちついてください。お嬢」

怒りに震える火鳥をなだめる少女が二人、片方はクラスの女子の学級委員、もう一人は添島の娘。

「落ち着け?落ち着けると思うか?この状況で。あそこは元は私の居場所だったのに」


そんなことはない。


少女二人はそう思ったが口には出さなかった。

そもそも彼女はこういう時いつもあと一歩の勇気が出ずに隣には座れていない。

しかし、((そういうところも可愛いんだよなぁ~))

彼女の友人達はそんな彼女を否定しない。


黒金と火鳥、両者に何か明確な違いが一つあるとすればそれは室隅に告白したかどうかであろう。

黒金は忘れられそれでもなお告白し、玉砕こそしたが、それでも諦めなかった。

火鳥は幼い頃からずっと一緒にいたが故に関係の変化を恐れ、機会を逃し続けて今に至る。


どちらの生き方にも優劣はつけられないだろう。


転んでも這い上がり続けた黒金は悪く言えば諦めが悪いし、

機会を逃し続けた火鳥も良く言えば現状を維持しここまでこれた。


もしも両者のやり方に優劣をつけなければならないときがあったとしても、それは今ではない。

それを決めるのは最終的に室隅がどちらを選んだか、

両者のやり方に優劣をつけるのはその時でも遅くはない。


そして添島の娘は口を開く。

「お嬢そろそろ昼休憩が終わります。室隅さんを誘うのであれば急ぎませんと」

その言葉に火鳥は焦り始める。

「そ、そうだな。い、行ってくる」

彼女の友人達は微笑みながら言う。

「いってらっしゃいませ。お嬢」

少女は駆け出した。察した周囲は道を開ける。

「な、なぁ渡」

しかし一手遅かった。


先に口を開いたのは


「室隅氏、午後は一緒に文化祭をまわろうでござる」

それを言ったのはこの昼の時間今までずっと彼のそばにいた存在。


そう馬飼 宏へやすみの友である。

「いいよ~」

「そうなんだ。いってらっしゃい」

その瞬間教室に衝撃が走った。

あまりにも予想外なその結果に誰もが数秒何が起きたのか理解が追い付かなかった。

そうしているうちに二人の少年は自分たちの弁当をさっさと片づけて出て行ってしまった。

あとには呆然と彼らの後を見ることしかできない少女達と、その少女たちになんと声をかけていいかわからないクラスメイト達しかいなかった。



二日目の午後は馬飼君と回った。

まずは射的をすることにした。

「やったでござるな室隅氏」

「馬飼君の協力のおかげだよ」

射的の店から少し離れた所で私たちは互いの手にある山盛りの戦利品を交換し合った。


それが終わったら、今度は話題になっていたお化け屋敷に行くことにした。

二人して大騒ぎしながらお化け屋敷を後にした。

しばらく喫茶店で息を整えると今度はコスプレコーナーという店が目に入ってきた。

気になって入ってみるとそこは色々なコスプレをして記念撮影ができる店らしい。

「昨日の文化祭に現れたっていう謎の二人組はここの宣伝だったのでござるかな?」


実はそれ私の身内なんだ。しかも素であの服装なんだよ。

とは流石に言えないので黙っていることにした。


これがいいか、あれがいいかと二人して悩みながら結局私たちは推しに似た服装で記念撮影を撮った。

楽しくなって二人で何枚も取ってしまった。


充分に満喫した後私たちは文化祭中にやっている軽音楽部のライブを観に行った。

アニソンやボーカロイドの曲なども多く使われていて、普段音楽をあまり聞かない私たちでも楽しめた。



こうして私の文化祭は終わりを告げた。



もはやそこには何もなかった。

何もない店に客は寄り付かない。

呆然としている店員、不護京茂ふごきょうもを前にクラスメイトは聞いた。

「またやつか?」

「あぁ今度は男と一緒だった」


そこは射的の店だった。

ある男によって二回とも目玉商品を取られ、午後こそはと意気込んでいた矢先にその悪魔は現れた。

その二人組はまるで、今までは本気じゃなかったといわんばかりに息の合ったコンビプレーを見せて商品を取っていった。

あの男対策に目玉商品の類には軒並み箱の中に重りを入れたにも関わらず二人はそれを上下に同時にあてるという、息の合った離れ業をすることで攻略して見せた。

「完敗だよ」

店員は潔くそう認め清々しい笑みを浮かべた。

「それはそうと景品に重り入れたことでクレーム来てるぞ」

ただどんな事情があろうとも店員のやったことは不正以外の何物でもない。

彼はしっかりと教師に怒られた。

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