第15話バッドエンド

後夜祭


それは、この高校の文化祭の最終日に行われる生徒向けのイベント


この後夜祭の目玉であるキャンプファイアーの前でフォークダンスを踊ったカップルは長続きするとかしないとか

なお友達同士で踊ると恋愛運が上がり、

家族間で踊ると金運が上がり、

そしてこのフォークダンスで告白したカップルは結ばれるとか何とか言われている。

(血洗高校文化祭パンフレットより一部抜粋)



後夜祭・キャンプファイアー周辺

そこは今、最高の盛り上がりを見せていた。

飲食店のクラスの生徒は売れ残った食べ物をただで友人たちに配り、

軽音部を始めとする様々な部活が即興野外ライブを行っていた。


そんな中で私、室隅 渡は友人のアズマ=ウィリアム=ウェイトさんと一緒に歩いていた。

彼女とは昨日一緒に文化祭を見て回った時にフォークダンスを踊る約束をしていた。


ちなみに共通の友人である馬飼君は用事があるとかでどこか別の場所で後夜祭を楽しんでいるそうだ。

私達は飲食店をしていたクラスが配っている飲み物を受け取ると後夜祭を歩く。

「きれいだね。これなら文化祭のパンフレットにわざわざ書く理由がわかるなあ」

アズマさんは楽しそうに辺りを見まわしながら言う。

キャンプファイアーの炎のせいかいつもより顔が赤く見えた。

「そうですね。中には『この後夜祭がメインイベントだ』なんていう人もいるらしいですよ」

そう言って私たちは二人で後夜祭を歩く。



「あの二人なんかいい感じじゃない?」

そんな二人を見て天パの少年はそう言う。

「あぁそうであるな」

それを聞いて友人のメガネの少年もそう言う。

「見ろよ、俺たち以外にもかなりの人数集まってるぜ」

周りを見回してロン毛の少年は言う。

どうやら彼ら三人が可能な限り友人たちに広めた『衝撃!!アズマさんフォークダンスで告白?!お相手はあの何かと噂の絶えない男 室隅!!』というニュースを聞いてかあるいはそれ以外かで知った人たちが見物に集まっているようだ。

その容姿や人当たりの良さ、学業や運動での成績など。

とにかく転校してきてからなにかと注目されてきたアズマ=ウィリアム=ウェイトさんが告白するという噂はそれだけ同級生の注目を集めるのだろう。

あるいはその相手にも何かあるからか。


室隅 渡、その人物はあまりに異質だった。

学業も運動も月並みで容姿や経歴も特に表すべきところもなく、教室でもいつも隅で友達とアニメの話をしている。どこにでもいるありふれた男子高校生の一人であるにも関わらず学校のマドンナであった黒金 英利に告白され、しかもそれを振り、結果いじめを受けた人物である。

更には同じく学校のマドンナであった火鳥 楓と幼なじみだということもあり、周囲からは不審がられている。

なぜあいつがあんなにモテているのだろうかと。

そういう意味合いでも周囲は知りたいのだろう。

室隅 渡という人間について。


「なんてことのない普通のいい奴なのにね」

そんなロン毛の少年の思考を読んだのか天パの少年が呟く。

メガネの少年は何度もうなずくと

「うむ、確かにそうであるな」

天パの少年の意見に賛同した。

実際に話してみてわかった。

室隅 渡という男は普通にいいやつであると。

話しやすく気配りもできて関わっていて気分が良い。

その気持ちは同じなのかロン毛の少年も深くうなずくと

「だからこそ、あいつらは知りたいのさ、あいつが本当にいいやつなのか、自分の目で確かめたいんだろう」

そいつらを下世話と罵る資格は彼らにはない。

なぜならそもそもそいつらを間接的とはいえ、呼び込んだのは彼らなのだから。



「毎年この後夜祭で生徒たちの笑顔を見ていると、日頃の疲れが吹き飛ぶよ」

そう言ったのは暗い部屋から出てきた威厳のある声の人物、校長であった。

「しかし騒ぎすぎだぞ。近隣住民からクレームが来るのではないか?」

校長の意見に異を唱えたのは同じく暗い部屋から出てきた覇気のある声の人物、教頭であった。

校長はその意見を聞くと苦笑した。

「確かにな、だがいいじゃないかそれで生徒たちが楽しめるのなら」

「お前は生徒に甘すぎだ。優しく接することと甘やかすことは違う、いや対極にあるといっても過言ではない」

校長にも自分の日頃の行動に思うところはあるのかまたも苦笑する

「いつもありがとうな。お前のおかげでうまくバランスがとれている」

教頭は照れ隠しなのか「ふん」と鼻を鳴らした。

そんな教頭を見て校長は一言つぶやいた。

「願わくばこのまま無事終わってほしいものだな」


そして運命のフォークダンスが始まる。


軽快な音楽が鳴りキャンプファイアーの周りにいた生徒たちは相手と踊り始める。

私もアズマさんと踊り始めたがすぐに私の方がペースを乱してしまった。

アズマさんは楽しそうに笑うと私の腰に手をまわした。

「ちょ!」

「慌てないで。私が踊るから渡君はそれに合わせて」

戸惑う私に彼女はそう言った。

そこから先は凄まじかった。

あれよあれよという間に踊れるようになっていた。

「すごい」

「どんなもんよ」

驚く私に彼女は胸を張って自慢げにした。

しばらくして私がリズムに乗れるようになると彼女は話しかけてきた。



「楽しいね」

「そうですね」

「ずっとこの時間が続けばいいのにね」

「・・・そうですね」

「鈍感だね」

「え?」

「ねえ渡君」

「何ですか?」

「私ね君のことが好きなんだ」

「え」

「冗談じゃないよ。ねぇ渡君私とつきあ

全てを言い終える前に事件は起きた。

キャンプファイアーの火が突如膨れ上がるとそれが


同時刻・どこかで二つの声がした

「内藤」「添島ぁ」

「「ヤレ」」



その少し前・

そこは学校の屋上だった。

そこには一人の少女がおり、校庭で行われている後夜祭を眺めている。

彼女の名は黒金 英利

一人の執事がおり、今は主の指示を待ちかしずいている。

すると扉の開く音が聞こえ、人が入ってくる。

少女は侵入者を見ても特に思うところはない。

彼女達ならどの道ここには来ると思っていたからだ。

侵入者の名は火鳥 楓そして傍らには腹心の添島も。

「早かったわね」

先に口を開いたのは黒金の方だった。

彼女の言葉に火鳥は呆れたように言う。

「待ち合わせなんてしてなかっただろ」

少女たちは互いに目を合わせない。

見据えているのはただ一人、自分の思い人だけ。

そして彼がフォークダンスを踊り始めると少女たちから表情が消える。

側近たちはそれを見て静かに息を呑む。

激高するでもなく、何か他の表情をするでもなく、

ただ彼女達の端正な顔から表情が消える。

それが彼らにはたまらなく恐ろしい。

そして自らの主は告げる。

ある一線を超える命令を、あるいは一人の少女への死刑宣告に等しい言葉を


そして賽は投げられた


そして内藤はスイッチを押す。

次の瞬間キャンプファイアーは大きな爆発とともに崩れ、彼らの主の思い人にたかるハエに襲い掛かる。

その直後周囲は騒然となり、教師たちが急いでキャンプファイアーの消火を行い始めた。


その光景を見ても彼らの主たちは表情一つ変えず言う。

「やけに対応が早いわね」

「これぇ、もしかして裏に誰かいたか?」

そして火鳥は黒金を見てあることを切り出す。

「なぁ、」

「?何よ?」


「私ら手を組まないか?」

その言葉に黒金は何を言っているのかわからないという顔をする。

「はぁ?あなた頭沸いた?誰と誰が手を組むって」

火鳥は表情を変えずに続ける。

「私とお前が。勘違いするなよ。別に渡を諦めたわけじゃない。そうじゃなく、一時休戦して、邪魔者を排除しないか?と聞いている。気づいているんだろう?私たちの他に何かが邪魔をしてきている。今回の件で確信した」

黒金は一度舌打ちをして言う。

「ちっ、なるほどね、確かに邪魔ね。それに私たち双方にメリットもある。ここは潰しあうより早いかしら?」


そういうと火鳥は左手を差しだす。

黒金はその手を躊躇なくとった。


次の瞬間扉の開く音がして気の抜けた声が飛び込んできた。

「まったく屋上は天文部以外立ち入り禁止だってのにどいつもこいつも破りやがって」

それは紺の髪をポニーテール状に纏めた男性教師だった。

そんな男に少女たちは聞く。

「先生こそ、ここで何を?」

男はいつもの調子で手すりに寄りかかりながら言う。

「ヤニ休憩」

そして校庭の様子を見ると感情の読み取れない声で言う。

「おぉ~燃えてるね。だからあれほど『気を付けなよ色々とね』って言ったのに」


黒金は聞く。

「何を、言ってるんですか」

男は煙草の煙と共に「君らに気を付けて、って言ったんだけどね。まさか君たちがここまでできるとは、彼女には気の毒なことになっちゃったね」

そういって男はまた煙草を吸い始めた。


「貴方何者ですか?」

火鳥の質問に男性教師はいつもの調子を崩さずに言う。

「何って君たちの顧問だよ?『睦月君の子供』と『天音さんの子供』」

二人の少女とその側近は衝撃を受ける。

「何で父さんの名前を、会社のホームページにも学校にも伝えてない情報ですよ」

「それを言うならなんであんた母さんの名前も知ってるのよ。本格的に貴方何者?」

しかし男性教師はいつもの調子を崩さない。

「だから君たちの顧問だって言ってるじゃない。ただ『ある夫婦の友人代表挨拶と家族代表挨拶を同時にこなした』っていう肩書もつくけどね。あぁ、それと『渡の叔父』も、か。わからないようなら後ろの二人に聞いてみな、彼女達二人もあの場所にいたから」

そう言うと男性教師は何事もなかったかのようにその場を去っていった。

後には少女たちだけが残った。


後日・

そこはいやになるぐらい明るく、そして白い部屋だった。

今、私はアズマさんの件で警察に事情聴取を受けている。

警察の人は今までの記録を見ながら言う。

「つまり君はあの事故について何も知らないってことでいいね?」

それは問い詰めるというより確認の側面が強い。

「はい」

「わかった。それなら今日の聴取は終わりだ。ご協力感謝するよ。君もつらかっただろう。外まで送るよ。親御さんは来てるかな?」

私は時計を見て答える。

「叔父がそろそろ来ると思います」

そう言って警察の人に連れられて外に向かう。


「まさかこの一大事に車が故障するとはね」

男は歩いて警察署まで甥を迎えに行くその際中に。


「あ」

男の目の前で子供が道路にとび出した。

おそらく転がっていったボールを取るためだろう。

「しょうがねぇな」

そう言って男は駆け出しボールを手に取ると子供に投げて渡す。

「ほら、もう落とすんじゃないぞ」

渡された子供は嬉しそうにほほ笑んだ。


そしていつの間にか遠くから猛スピードで車の走ってくる音も聞こえてきた。


その音を聞き、音の方を見たとき男はこれから自分の身に起こることを予測し、その上で乾いたような笑いを一つすると自分の後ろにある警察署の方を向いて言った。

「悪い、ちょっと異世界行ってくるわ」

次の瞬間男の意識は大きな音と共に途絶えた。



私が警官の人と警察署の外に出るとどういうわけか目の前の赤信号の道路に叔父さんがいた。

叔父さんは何かをこちらに向けて言った。

そう思った次の瞬間、彼の横から猛スピードでやってきた軽トラックにはねられて、一人の男がゴムまりのように吹き飛んだ。

そこからは何が起きたかわからなかった。



ヒメイ、チ、コエ

トオノク意識



気が付いた時には自分の部屋のベッドの上で寝ていた。


あの光景から今この瞬間までの記憶が存在しない。

今、気づいたことだが私自身の服装もあの時とは変わっていつも家で着ている部屋着だった。


自分で着替えたのか?それとも誰かが着替えさせたのか?

そういえば今は何月何日だ?

そう思って携帯のカレンダー機能を確認したらあれから三日たっていた。

その事実があの光景が夢ではなかったことを理解させた。

結局あの後どうなった?


何が起きたか思い出そうとするとお腹が鳴った。

ひどくのども乾いた。

どうやらあんなことがあった後でも、自分の体だけは変わらないらしい。


とりあえず何か口に入れようとキッチンに向かうと

「あ、起きたの?おはよう~」

そこにいたのはエプロン姿の楓だった。

「あ、渡君起きたの?待っててね今朝ごはん出来るから」

リビングのには英利さんもいる。


「な、何で二人ともここにいるの?」

咄嗟に理解が追い付かずに言った質問に答えたのは楓だった。

「何でって、五十嵐先生が入院しちゃって、急な一人暮らしは心配だからって渡の母さんに頼まれたじゃない」

英利さんもこちらにやって来ると強く頷いた。


「じゃあ、改めて」

そして二人は声をそろえて言った。

「「これからよろしくね」」

私はあのとき何と答えれば良かったのだろう。今でも時折考える。


第一部完

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ハッピーエンドは迎えない 目玉焼き @yuderuna

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