第12話これで二回目
前回までのあらすじ
大変なことが起きました。
「ん?」
店で飲み物を飲んでいた内藤兄妹の妹の方の携帯に通知が来る。
「おい、仕事中は電源切っとけよ」
そう言う兄を無視し、通知を確認し、驚く
「な、なによこれ」
その内容は簡潔にまとめるとアズマさんがフォークダンスで室隅に告白するというものだ。
兄にもそれを見せると兄も驚きを隠せない表情を浮かべる。
一瞬口の中の飲み物を吹き出しそうになりながらもこらえた点は賞賛に値する程の驚愕が二人の間に流れた。
「これは、・・お嬢様には見せないほうがいいな」
そういって兄は少し離れた席で噂の少年と楽しそうにお茶している自分たちの主を見た。
兄は少し考えてから席を立つ。
妹はそれを咎める。
「どこに行く気?」
兄は軽く笑いながら言う。
「ちょっとお手洗いに。ごめんな」
そう言って兄は高校の文化祭の会計の為に少し多めに金を置くと去っていく。
妹からは見えない角度だったがその男の顔には覚悟のようなものが現れていた。
それからしばらくして学校の屋上・
「何?それは本当か?・・・わかった。アズマ=ウィリアム=ウェイトには別動隊が組まれるんだな?だったら俺の方も黒金をやっておく」
そう言ってスナイパーは少女に照準を合わせる。
「悪く思うなよ」
そう言って指が引き金にかかるその瞬間、スコープを何かが貫いた。
それは紙製のストローだった。
「!誰だ!」
そして辺りを見まわすとそこにいたのは
「何しやがんだこのガキィ」
一人の少年だった。
いやあるいは一人の兄というべきかもしれない。
スナイパーは好戦的な(あるいは野性的な)笑みを浮かべて言い放つ。
「名乗れよ。てめぇ名は?」
「いいだろう。
「
こうして本日二か所めの静かな激突が起こった。
割愛!!!
休憩場(健全)・
「あ、この紅茶美味しい」
黒金さんは紅茶を飲んでそう言った。
その店はどちらかというと看板に書いてある喫茶店というよりもスイーツショップと言った方が近い内装をしていた。
私には紅茶の良し悪しなどわからないが黒金さんが言うのならきっと良い茶葉を使っているのかもしれない。
そのまま私たちは紅茶を飲み、いっそ人体に無害かどうかを疑うレベルにカラフルなお茶菓子を食べ、話をした。
黒金さんは私の言いたいけどうまく言語化できない部分を教えてくれたりしたのでとても話しやすかった。
・・・あれ?こんなこと前にもなかったっけ?
「どうかしました?」
そんなことを考えていると黒金さんは不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む。
「い、いえどうもしないですよ」
あれ?もしかして私、今変な顔をしてた?
店を出たらしばらくその辺を歩きながら今評判の映画研究会の自主制作短編映画を見ることにした。
何でも、その映画館では不思議な格好の客が見たとか言う噂が出ていた。
その格好というのが全身黒づくめの団体客とか魔法使いのような格好の男性とか人体模型のコスプレとかいうものらしい。
それで今回はどんな格好の客が来るのかということで評判らしい。
その会場に着くと席はそこそこ埋まっていた(ちなみに今回のお客さんたちは普通の格好をしていた)。
しばらくすると会場は暗くなりまるで本物の映画館のような雰囲気が出てきた。
肝心の映画の内容は、うん、その何というか。
全体的にどことなく有名な作品をパロってるし、部員が少ないのかさっき死んだはずの人物がカツラを変えてもう一度別の役として出演してるし、そのくせCGは豪華だし、かと思えばタイヤにローションを塗りたくった物に蠟燭の火を引火させる謎の儀式をしていたし、もう何が何だかわけがわからなかった。
映画を見終わり会場を出ると妙にもやもやとした感情だけが残った。
私たちは顔を見合わせ力なく笑った。
「何かすごい映画でしたね」
「えぇ、そうでしたね」
そのまま気を取り直して別の店に向かうことにした。
黒金さんは射的の店の前で立ち止まり少し遊びたいと言ってきた。
私は頷き、店に入ると店員さんが(うわっ!)って目をされた。
私は覚えていないけど、たぶんアズマさんと荒らしまわった店の一つなのだろう。
店員さんにお金を払い二人分の銃と弾をもらうと位置につく、すると黒金さんの目つきが変わり次の瞬間にはすごい勢いで小さなお菓子などを落としていった。
店員さんの表情には驚きの色が浮かんでいた。
私もそれに負けないように撃つが昨日と同じでちっとも当たらない。
黒金さんはお菓子類をあらかた落としつくすと今度は大きなぬいぐるみを狙い始めた。
それはサイズ的におそらく店の目玉なのだろう。
そういえば昨日アズマさんから貰った射的の景品にあんなのがあった気がする。
あのお店か。
確か今はあのぬいぐるみは五十嵐先生が父さん達が持ってきたお土産と一緒に漫研の店に飾っていたはずだ。
黒金さんはその目玉商品をあと一歩まで追い込んだところで弾が切れてしまった。
そしてその場にいた全員がこちらを見る。
私も弾は残り一発、景品もほとんど残っていない。
私は呼吸を整えると意を決して引き金に指をかける。
緊張のせいか心臓の音がうるさい。
意を決して放った弾丸は目玉商品にあたり見事に落ちた。
店員さんも絶叫を上げながら同じように膝から崩れ落ちた。
私は黒金さんを見る。
彼女は手を上にあげ、ハイタッチを待つような格好をしていた。
普段の彼女なら考えられない動作だが何故か不思議と違和感は無い。
そのまま私たちはハイタッチをした。
この光景は前にもあったような気がした。
店員さんが絶叫して膝から崩れ落ちるのも含めて。
室隅達が店を去った少し後・射的屋
先ほど、廊下まで響くほどの
廊下で呼び込みをしていた男子生徒も同じように教室に戻ってきていた。
「何だ?どうしたよ?ってこれ。何があったんだ?」
それはまるで災害の後のようだった。
全ての小物は取られ、しかも目玉商品だったBIGサイズのぬいぐるみまで取られている。
「やつだ、やつだ」
その場にいた店員、
「やつって?」
「昨日もBIGサイズを取って行った男だ。連れていたのは昨日とは別の女子だったがな」
その男は心の底から恐怖と憎しみの籠った声でそう言った。
(一体何があったんだ?)
もはや店じまいしか選択肢の無い。
かつて呼び込みをしていた男子生徒はそう思った。
「これどうします?」
景品を抱えて私たち二人は落ち着ける場所を探していたらいつの間にか人気があまりないところに来てしまった。
「お菓子はここで食べましょう。・・・あの室隅さん、このぬいぐるみ貰ってもいいですか?」
彼女は食い入るように私を見つめるとそう聞いてきた。
きっとこのぬいぐるみがどうしても欲しかったんだろう。
そう思った私は「もちろんですよ」と言った。
黒金さんはとても嬉しそうな笑顔を浮かべるとぬいぐるみを大事そうに抱えてこう言った。
「ありがとう。大事にしますね」
その彼女の姿はどこかで見たような気がして、
その疑問はやがて確信に変わる。
「あの黒金さん」
「?何ですか?」
「もしかして僕たちって幼い時に一度、いや何度か会ったことはありませんでしたっけ?」
私がそう言うと彼女はそれを聞くと呆れたような、しかし同じぐらい嬉しそうな顔を浮かべてこう言った。
「やっと思い出したの?『渡君』?」
そして彼女の口調が変わった。
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