第10話ただただ外野が可哀想

文化祭最終日(この学校の文化祭は土日の二日間開催される)。

今日の初めの時間は馬飼君もアズマさんもそれぞれ仕事シフトが入っている。

一人で何をしていようか。

そんなことを教室の隅で考えていたら、私の目の前を黒金さんが通り過ぎようとして、途中でこちらに気が付いたような様子で立ち止まる。

そしてこちらに歩いてくるとその口を開いた。

「あ、あの室隅さん」

「あ、え、私ですか」

日頃接点のない人に話しかけられて思わず声が裏返ってしまう。

「はい、その、これから誰かと周るご予定はありますか?」

「い、いえありませんけど」

私がそう言うと彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。

「そうでしたか。で、ではこの後、私と一緒にまわってくださいませんか?あの一件のお詫びもしたいので」

「は、はぁそういうことでしたらぜひ」


ここで少し忘れないでいただきたいのは黒金くろかね英利えいりは直接はいじめの一件に関わっていないという点だ。

そこだけはご理解頂きたい。

話の根幹に関わることなので一応ね。


その数分後・

室隅へやすみの教室のすぐ近くにある階段の踊り場である少女は言った「あの女絶対に許さない。おい!添島ぁ!!」

そう言って彼女ひのとりは昨日と同じように少女は側近の少女を呼んだ。

「は!」側近の声は震えていた。

少女はそれを意に介さずに命じる「わかってるよなぁ!!!」

側近は主の気迫に恐れながら言う「はい!黒金 英利の妨害ですね!」

少女は普段とは違う好戦的な(あるいは野性的な)笑みを浮かべながら「よぉく理解わかってるじゃねぇか。なら、さっさと行ってこい!」

そう言うとクラスに戻っていく。

あとには小動物のように震える添島だけが残った。


ほぼ同時刻・クラス内の控室の一角

そこには昨日のように黒金 英利を中心として人だかりが出来ていた。

その中心に立つ少女は昨日と違って嬉しそうだ。

傍らにいる側近ないとうはそんな様子の主に向けて言う。

「では我々はサポートにまわる。でよろしいですか?」

それに対して主は答える「いいえ。その必要はないわ。むしろいじめに関わった者が近くにいては彼も楽しめないでしょ?その私とので、でで・・」

主の言わんとすることを察し側近はその言葉を引き継ぐ「デートですね?かしこまりました。であれば我々は他に何かすべきことはございますか?」

「貴方たちには火鳥側の妨害を排除してもらいたいの。あの陰険女どうせ何かするにきまってるもの」

どうやら自分たちの主は昨日自分たちに何を命じたのか忘れたらしい。

恋は盲目とはよく言ったものである。

そうして黒金 英利は教室の出口に向かった。

すれ違いざまに黒金は教室に入ってきた火鳥に満面の笑みとダブルピースを見せていた。

火鳥の背中側から見ていたが、おそらく火鳥はここが二人だけの密室だったら間違いなく黒金を殺していただろう。

火鳥とあまり接点のない彼らですらそう思ってしまう程の憤怒の気迫が彼らにも感じ取れていた。


学校校門前(少し離れた場所)・

黒金の側近である自分の娘から連絡を受けた内藤(母)はまわりの関係者に指示を出す。

「開戦の火蓋はすでに切られた。お嬢様は今日、室隅少年とデートすることになった。我々の使命はこれを妨害せんとするすべての勢力からお嬢様をお守りすることにある!総員奮起せよ!!これを成功させれば臨時ボーナスが待っているぞ」

周囲から歓声が沸く。

近隣住民大迷惑である。


そのすぐ近く(しかし見えない位置)・

同じく娘から連絡を受けた添島は目の前の部下達に激を飛ばす。

「野郎ども。開戦ケンカの火蓋はもう切って落とされた。室隅は黒金とでぇとするそうだ。俺たちはこれを妨害する。当然向こうの黒服共とやりあうんだろう。全員蹴散らしてやれ!ただし間違っても室隅は傷つけるなよ。お嬢にぶっ殺されたくなきゃな。何としても成功させろ!気張れよ野郎ども!!」

周囲から怒号が沸く。

この日の近隣住民は寝起き最悪である。


二つの騒音の同時刻・

室内の人間の顔も見えない程の暗い部屋で五十嵐は外にいる仲間から報告を受ける。

それに威厳のある声が問う。

「何と言っていた?」

五十嵐はひきつった笑みを浮かべながら

「予測しうる限り最悪の事態が発生しました。即ち『』です」

声たちは日頃の平静を完全に失い慌てふためく

「規模は?」

「被害の予測は?」

「何が原因だ」

「これを起こさないための『計画』ではないのか?」

「そんなことは後回しでいいそれより生徒の避難が最優先だ」

「文化祭二日目の開催時刻まであと何分ある?」

「もう十分もないぞ」

「そもそもどう言って避難させるのだ?大半の生徒はこのことを知らないのだぞ」

「爆破予告があったというのは?」

「それなら何故生徒の登校を許可したという話になるだろう」

「後のことは後で考えればよい。それよりも大事なのは今だ」

「その今が問題なのです。何と言えば生徒たちや父兄が納得すると思いますか?」

そんな中で威厳のある声は言った。

「五十嵐君。君ならばこの問題を解決できるかね?」

そんな問いに五十嵐はこう答えた。

「はい。ただし条件があります」

「何かね?」

五十嵐は酷く冷徹な目をして試すような口調でこう聞いた。

「外の世界つまりはこの部屋の外に出てあなた方にも働いてもらいます。火鳥や黒金、両勢力に今後目の敵にされる危険性を受け入れていただくこと。それが条件です」

そんな五十嵐の言葉に部屋のすべての声から返ってきたのは

「「「「「「ハハハハハ」」」」」」

大きな笑い声。ただそれだけだった。

やがてそれが収まると威厳のある声がこう言った。

「それだけかね?」

五十嵐は困惑しながら「はい。それと外に出たら私の指示に従っていただきます」と答えた。

威厳のある声は「ならばもったいぶらずにそう言いたまえ。外に出る?火鳥や黒金の勢力に狙われる?君の指示に従う?あのなぁ五十嵐君。我々にとって、生徒を守るためならそんなものは代償にならないんだよ」そう言ってのけた。

「ほら、わかったらさっさと指示を出したまえ。時間は我等の味方ではないのだぞ?」

こうしてこれから起きる事件を防ぐため彼らもまた動き出す。

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