第6話選択こそが人生だ
ショッピングモール一階:
私たちは並んでショッピングモールを歩く。
どうやら二人とも私と同じものが必要らしく、どうせなら一緒に行こうということになった。
「そういえば二人は何の担当だっけ?」
私は二人にそう聞いた。
火鳥さんは「喫茶店で出す料理に使うトッピング担当かな。この先の店で色々売ってるらしいんだ。そうだ、せっかくだし、渡も一緒に選ぼうぜ」
黒金さんは「私は料理に使うお皿等の食器類の担当ですね。特に柄などの指定とかはされていませんが・・・そうだ。せっかくですし、室隅君も選ぶのを手伝ってくれませんか?」と二人同時に言われ一瞬頭がパニックになったが、何とか返答することが出来た。
「え、いや、あの、二人ともどうして私に?」
黒金さんは「そんなのこの案を出したのが室隅君だからに決まってるじゃないですか」
なにを当たり前のことを、黒金さんの目はそう言っていた。
その目からは何故か圧を感じた気がした。
いや(あれはどうせ採用されないからと、馬飼君がふざけて出して私に言わせた案で)そう言おうとしたが止めた。
その案を言った時点で私も案に賛成したようなものだし、事実を言っても彼女たちは困るだけだろう。
何より私も(馬飼君に連れられているから)メイド喫茶には詳しいのだし、何よりも私たちは同じ出し物をするクラスメイトなのだからここは嫌がらずに協力するべきだろう。
そう思い、とりあえず「わかりました、二人に協力します。その代わりこちらも協力してくださいね」とだけ言った。
二人は嬉しそうだった。
同ショッピングモール・二階:
そこでは二人の少女の、側近たちが自分達の主の様子を観察し、指令があればいつでも動けるように待機していた。
「
そう聞いたのは火鳥側の側近である
傍らにいた黒金側の側近である内藤は答える。
「いるよ。
これに対して添島は答える。
「あぁ、だからお嬢はあそこまで室隅少年が衣装係になるのにこだわったのか。やっと理解できた」
内藤は驚いたように目を見開き、しかし目線は決して主から外さずに添島に聞いた。
「理由も知らずに行動していたのか?君たちは?」
添島は何を当たり前のことをとでもいうかのような口調で返す「そうだぜ、理由なんて知らずともお嬢の指示があればそれだけでうちは動けるぜ。そっちは違うのか?」
内藤は呆れながらも「そう言えばうちもそうだ」と言った。
ここで少女たちに動きがあった。
ショッピングモール一階:
「こっちの店を見ましょうよ、ねぇ室隅さん?こちらの店の方が品物が種類が豊富そうじゃありませんか?」黒金さんはそう言って主にパーティー用品を扱っている風な店を指さした。
「はぁ?そっちは子供向けのファンシーグッズばっかりじゃねぇか。なぁ渡、こっちの店の方が私たちが望む商品が多そうじゃないか?」火鳥はそう言って(たぶん)業務用商品を取り扱っていそうな無骨な店構えの店を指さした。
おそらくどちらにも我々が望むものはあるのだろう。
だからこそ悩む。
というか同じショッピングモールの中で似たような店を隣接させないで欲しい。
こういう時どうすればいいのだろうか。
考え抜いた末に私は言った。
「ど、どっちも見に行きませんか?な、なんて、ア、アハハ」
瞬間その場の空気が凍りついた気がした。
その光景を少女たちの側近は見ていた。
そのうえで言う。
「なぁんでこういう時にいっちばんしちゃあいけない答えをするのかねぇ」
「同性のあなたがわからないなら私に聞かれてもわかりませんよ」
側近たちからすればどちらかを選んでもらった方がむしろ攻守がはっきりとするのでやりやすかった。
だがこれでわからなくなった。
お互いが視線を外すことなくどこかに連絡を取り始める。
おそらく店の中に潜ませた部隊に対してだろう。
相手側の行動がわかっていながらお互いに妨害のようなことは何もしない。
相手への妨害よりも自分たちのこれからの作戦の練り直しが大事だからだ。
少し離れた休憩スペース:
「件の少年どっちの店にも行くって選択しましたけど、どうします?」
争いの中心とはまた別の場所でもそんな言葉があった。
その言葉はあんパンをほおばりながら電話をしている中年の男から発せられた。
彼は二人の少女。そのどちらの戦力でもない。
その二人の争いを調整する
彼は少女たちの側近のように読唇術が使えるわけではない。
彼はどこにでもいるようなただの教員である。
ただ、彼は長年の教師人生での経験を基に少年少女の表情やしぐさからなんとなく少年の選択を推測しただけである(もっともただそれだけで、特殊な訓練を受けた者たちと同じ芸当ができるというのもそれはそれで異常ではあるが)。
その人物の通話の相手はくつくつと笑いながらも指示を出す。
「ならば『計画』通りに行きましょう。他の先生方にもそうお伝えください。こちらも『計画』通りにいきますので」
そういって通話は切られた。
「全くなんでこうも彼の予想が当たるかねぇ。それはそうとこっちもいきますか。生徒たちの安全のためにね」
男は呆れたようにそう言った後、歩き出した。
ショッピングモール一階・『ワンダーグッズ店』:
まず私たちは、黒金さんが選んだパーティー用品などを扱っていそうな店に足を運んだ。
その店はどの商品もカラフルで見ているだけでも楽しいが、しかしどの商品もばかみたいに高い。
「このチョコチップ、この量で二百円ってどうよ?」思わずそう呟いてしまうぐらいに高い。
そもそも個人でホームパーティーを開く人が使うものだから量を期待してはいけないのだろうがそれでもこの値段には疑問を口にしたくなる。
「ねぇねぇ室隅さん、このお皿とか可愛いと思いません?」
そう言って黒金さんはカラフルなプラスチック製のお皿を持ってきた。
確かにカラフルでいいと思う。
そこにメイド喫茶で出す予定の料理を載せたらきっとお客さんも喜ぶだろう。
しかし庶民である私は値段が気になる。
このお皿で必要な枚数をそろえようとすると予算が心配になってくる。
私は黒金さんにそれを伝え、とりあえず保留にすることにした。
「なぁ、渡、この柄の生地とかどうだ?」
今度は火鳥が男子の服に使えそうな生地を持ってきた。
私の代わりに選んでくれるのはありがたいが、
しかし「ちょっとこの柄は派手すぎじゃないか?メイド喫茶の男性店員の服はもう少し地味で良いと思うんだが」
それを言われた火鳥はとても悲しそうな表情をした。
予想外の反応に慌てて「でも、この柄はすごく良いと思うよ。私は好きだぜこの柄。個人的に買っていこうかなぁ」と言うと火鳥が嬉しそうな表情をしていた。
その表情がとてもきれいに感じた。
結局生地は(個人的に)買うことにした。
少し高いがあの笑顔の値段と考えれば安いと思えた。
次に私たちは火鳥の選んだ無骨な外装の店に来た。
その店は何というか、うん「順番逆のが良かったかなぁ?」
私は二人から離れた場所でそう独り言ちた。
この店で取り扱っている商品は決して悪いわけではない(個人的にはすごく好きだ)があのパーティー用品の店の商品と比べると、どうしてもメイド喫茶の雰囲気に合わないのではないか?と思ってしまう。
心なしか離れた場所にいる二人も品物を選ぶ手が先ほどの店よりも元気がないように見える。
そんな中で「あ、見つけた」自分のイメージしていた柄の生地を見つけることができた。
しかも「うっそ!この大きさでこの価格!?」それはとてつもない安さだった。
これなら余った予算であのチョコチップも、あの皿も両方買える。
そう思い急いで二人にこのことを伝える。
こうして私たちは望みの物を買えた。
帰り道:
二人の少女は意中の少年の少し後ろを歩きながら、
その少年には聞こえないように小声で会話する
「結局渡は私の選んだ店で望みの物を手に入れたわね」
火鳥がそう勝ち誇ると
「あら?私の選んだ店で望みの物を手に入れた女が何を言っているのかしら?」
黒金はそう言い返す
彼女たちはしばしにらみ合い、そして止めた
今はそんな気分ではないからだ
そのまま彼女たちは学校に帰った
全員が望みの物を手に入れて
一方で「「「我々は必要だったのか?」」」
街の一角でそうつぶやく声があった。
そう、今回彼らの出番は無かったのである!!
ある中年の教師は同僚にそのことを相手に伝えると「それでいいじゃない。君が動くことなく生徒の笑顔が守られたのならそれに越したことはないでしょ?」と返された。
そんなこんなでいよいよ運命の文化祭当日(1日目)
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