第7話気づいた時には手遅れだ
第惨章 『外野が騒いでいる』
一:
校門前(文化祭開催直前)・
壁は
廊下には看板を持った
それを生徒達が下見代わりに見て回っている。
うちの高校では文化祭開催中は生徒の私服が許可されている。
かくいう私も今は長袖のウィンドブレーカーに長ズボンという格好だ。
「やっぱり私服でござるなぁ。室隅氏」
そういったのは私
彼は推しのTシャツの上に謎の法被を着て、下は私と同じ長ズボンという姿だ。
「馬飼君も戦闘態勢だねぇ」
こうして私たちは文化祭に向かう。
そのすぐ近く・
「あぁ渡ぅ、私服もやっぱりいいねぇ」
それを盗撮する一人の影が
名は
「あんた何やってんのよ」
そう言って火鳥の首根っこを掴んだのは
彼女もまた室隅渡を愛する者である
黒金に対して火鳥は悪びれもせずに言う
「決まってるだろ。渡の私服姿をカメラに収めてんの」
「え、何それうそでしょ。あ、ほんとだぁ~~~」
そのまたすぐ近く(校門のすぐ近く)・
「柱の陰で何やってんだあの奇行少女たち」
そう言ったのはやや見た目の年齢にそぐわない落ち着いた雰囲気を出した青年だった。
「さぁなにやってんですかねぇ。それより先輩が来るなんて意外ですねぇ」
その質問ともいえないような独り言に答えたのは傍らにいた女子高生だった。
今日はいつもの言動からは想像もできない、やや背伸びした感もある大人びた服を着ている。
「漫画研究部の出店が復活したんだろう。北口、お前の卒業前の最後の作品も読みたいし、それに五十嵐にも会いたいしな」
二:
文化祭開催前(室隅のクラス)・
クラスで集まり皆が動く
私はシフトではないのでどこかを見て回ろうかと思うと
「ねぇ渡君よければこれから一緒に周ってくれない?他の人は皆忙しそうだしさ」
アズマさんがそう言ってきた。
私の返事は決まっていた「もちろんいいですよ。一緒に行きましょう」
こうして私たちは文化祭を見て回ることになった。
室隅の店の厨房・
そこには黒金 英利を中心として人だかりが出来ていた。
その集団は静かに主の指示を待っている。
「何なのよあの女!室隅君と一緒に周るのを他の奴がいないからって理由でやりやがってぇ!!」
主の絶叫にも近い愚痴を受け傍らの少女は答える。
「いかようにいたしましょうか?」
「決まっているでしょう。邪魔してきて。分かってると思うけど、もう室隅君を傷つけることは許さないから」
その言葉を受け、静かにしかし確実に全校生徒の三分の一と外部の人間が動き出す。
一つの絶対的な意思のもとに動く一つの
室隅の教室の近くの踊り場・
そこには一人の少女とその側近がいた
「添島」
「ここに」
「わかっているな」
「アズマ=ウィリアム=ウェイトの妨害ですね?」
「あぁ、任せられるか?」
「お嬢はただ命じてくだされば」
「任せた。私はこれからシフトがあるから」
こうしてもう一つの勢力も動き出す
ただ一人の少女の妨害のために
そのような会話をしている間にも大勢の人が校門を通り学校内に入ってくる。
ここではそんな人たちの間で交わされる会話の一部をご紹介させていただこう。
「渡は元気にしてるかなぁ。というか会うのは半年ぶりくらいか父親だって認知されてるよね?」
「八目がいるから大丈夫でしょ。それよりもこの雰囲気」
「あぁ、妙にきな臭い。この感じは渡が生後3か月の時に行った海外旅行先の暴動前日の夜をおもいだすなぁ」
「あの時程じゃないよ。せいぜい結婚後3回目の旅行の時のテロ事件の前夜程度だよ」
そんな会話をしながら歩くのはどこの店の呼び子たちよりも奇抜な服を着た男女だった。
周囲にいた人たちはその二人からよけるように歩いている。
「学内におかしな格好の二人組が侵入しました。どうしますか?」
「放っておけ今はそれどころではない」
「キャンプファイヤーの薪の設置急げ~。メインイベントだからな。ぬかるなよ~」
「本当にこれで大丈夫なんだろうな五十嵐君」
暗い部屋で威厳のある声は言う。
「人事は尽くしました。後は天命を待つしかないでしょう」
五十嵐のその発言に覇気のある声は言う。
「あぁ、君はさっさと自分のクラスに行きたまえ。何かあればその都度対応するようにな」
かくして結果の見えない文化祭が始まる
学園内廊下・
私は今、アズマさんと文化祭を見て回っている。
周りはどこも告白ラッシュの影響かカップルが目立つ。
アズマさんは壁を埋め尽くすように貼られたポスターの中に気になるものを見つけたようだ。
「ねぇ渡君。この最終日のキャンプファイヤーって何?」
アズマさんの質問に私は答える。
「あぁ、これはよくある後夜祭のフォークダンスのイベントですね。カップルとかがここで踊るとそのカップルは長続きするって噂ですよ」
そんな私の言葉にアズマさんは驚いた顔をして、「長続きするだけ?あ、だから最近の体育は男女混合のフォークダンスだったんだ」
「はい。あ、ちなみに踊る相手は別にカップルだけじゃなく友人や親子とかでも大丈夫だそうです」
それを聞いたアズマさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて「だから授業中も渡君は宏君と踊ってたんだねぇ」と言ってきた。
私は「え、えぇまぁそうでしたね」と苦笑いと共にそう返した。
そんな私にアズマさんは少し申し訳なさそうにしながら「ごめんって。そうだ!せっかくだし後夜祭で一緒に踊らない?友達同士でもいいんでしょ?」そう言って彼女は笑った。
「いいですよ。一緒に踊りましょう」そう言って私も笑った。
その近くでその会話を聞いていた二つの勢力の人間たちは固まっていた。
その理由は「((どうする。報告するべきか?))」というものである。
勿論その対象は先ほどの室隅とウェイトの会話である。
報告すれば自分達の主は怒り狂うだろう。その後
どんなことをしでかすか分からない。
しかし報告しなければしなかったであとが怖い。
しかも最悪なことにいつもこういった場合に決断を下している、少女たちの側近は今連絡の繋がらない状態にあった。
それもまた彼ら彼女らの考えを鈍らせる。
((どうする?こんな時あの人たちはどうしていた?))
そんなことを考えていると二人は別の場所へ行ってしまう。
とりあえず彼らは二人を追うことにした。
一方のメイド喫茶・
そこでは、渦中の少女たちは料理や給仕で大忙しだった。
そんな中で「あれ、英利ちゃん?」誰かにそう呼ばれた。
「はい?」思わず黒金 英利はそう反応してしまう。
呼び止めたのはおかしな格好の二人組だ。
片方は冬でもないのに膝まである厚手の外套を羽織り、マフラーを巻き絵本の魔法使いのようなとんがり帽子をかぶっている男。
もう片方はTシャツにオーバーオールと首元にゴーグルを身に着けた長身の女。
しかしこの二人何処かで見かけたことが?
黒金 英利はしばらく考えた、そして衝撃的な答えが出てきた。
「(まさか)お義父様とお義母様!?」
そういうと男の方は笑いながら「まだ違うけどなぁ。それはそうと久しぶり」
男の方の名前は
女の方は
二人は室隅 渡の両親である。
母親の側は別の誰かを見つけると呼びかける「あれ、楓ちゃんも久しぶりぃ~」。
そう言われた火鳥 楓は信じられないものを見たような目をした後「お、お久しぶりですお義母さん」とだけいって沈黙してしまった。
それはそうだ。
こんな今時ハロウィンでも珍しい奇抜な格好をした人が夏の終わりと秋の始まりの合わさったこの季節の文化祭にやってきて来て。
しかも自分の知り合いだったら、もう沈黙するしかないだろう。
こんな何を言っても正解にはならないであろうこの空気感の中でしかし彼女たちは動いた。
それは「「ご注文はお決まりですか?」」
そう接客である。
脈絡なくされたその質問。
一見間違いにも思えるこの選択だが、一度思い出してほしい。
この奇抜な世界観への先入観を捨て、若干ナレーションの口調がおかしくなった事実にも目を逸らし考えてみてほしい。
ここはメイド喫茶である。
その空間にいる彼女たちは店員であり、目の前の奇抜な格好の二人は客である。
だとすればとるべき選択はただ一つ。
そう接客である。
奇抜な格好の二人組はこう答えた。
旅の方は「じゃ、英利ちゃんの入れたコーヒーを二人分」
目貫の方は「なら私は楓ちゃんの作ったケーキを二人分」
二人の少女は一目散に駆け出し、いつもの荒々しさは何処へやら、必死になって注文されたものを作り始めた。
今の彼女たちの中には隣の女を妨害しようなどという思考は欠片も残っていない。
ただ義両親(過言である)に出す料理のことで頭がいっぱいである。
気づけば全身には嫌な汗が流れている。
なんとか二人は注文されたものを作るとテーブルに運んだ。
二人は少女たちにお礼を言うと出されたものに口をつける。
そして言う「うまい。このコーヒーもしかして相当いい豆使ってる?」
「いや、ここは高校の文化祭だ。高いものは使えない。つまりこれ、彼女たちの純粋な力量だよ。このケーキもうまい」
そう言って二人はただただ感嘆の声をだしながら黙々と食べる。
あるいは夫婦の会話を止める程その料理がうまいのか。
こうして夫婦はお代を払うと帰る支度を始めた。
帰り際二人は何かを思い出したように言った。
「二人とも息子をよろしくね。美味しいコーヒーとケーキをごちそうさま」
「楽しいひとときをありがとう。二人とも体には気を付けてね。また会いましょう」
二人が去った後
二人の少女はひざから崩れ落ちた。
とても疲れた。控室で休もう。
少し離れた廊下・
奇抜な格好の二人組は並んで歩きながら言う。
「まさかきな臭い雰囲気の元をたどって歩いたら、二人の店につくとはなぁ」
そう、この夫婦は少女たちに会いに行く目的であの店に行ったんじゃない。
ただ高校の敷地に入ってからずっと感じている嫌な気配。
「えぇ、二人とも大丈夫かしら。怖いことに巻き込まれないといいけど」
気配が分かるといってもそれは完璧ではない。
この二人は必ずと言っていいほど海外旅行に行った先で事件や暴動、テロに巻き込まれる。
それ故、経験上危険なところが人よりわかる。
何処まで行ってもその程度に過ぎない。
だから事件の元凶があの少女たちだと気づかない。
もしもそれを感じ取れたとしても信じるとは限らないが。
「それより次は渡の店に行こうぜ。あいつ何組だっけ?」
そう旅が言うと妻の目貫はやや怒りの混じった声でこう言った。「今の教室だよ」
それを言われて旅は気まずそうにしながら、
「じゃ、じゃあ、このパンフレットにある天文部主催のプラネタリウムっての見に行こうぜ」
旅がそう言うと目貫は「いいえ。今度はこの映画研究会の短編映画を見に行きましょうよ」
この二つの展示にはある共通点がある。
間違いなくこの夫婦の格好の方が展示の内容よりも目立つ。
そもそも世界中を旅してそのたびに事件にあってきたり、それ以外にも様々な経験を積んできたこの二人を満足させられる物を一介の高校生が作れるかも少し疑問である。
しかし二人はそんなことを気にせずにどちらを見に行くかで言い争いを続ける。
少し離れた場所・
「何なのだあいつらは」
そう言ったのは文化祭の警備を担当している、一人の体育教師だった。
その視線は目線の先にいる奇抜な格好の二人組に釘付けになっている。
彼らの立ち居振る舞いは彼から見てもあまりにも隙がない。
そして彼らの間合いに一歩でも踏み込んだらその瞬間トラレル、彼の本能がそう告げていた。
それだけでなくそれを当たり前のように放ち、しかも周りには悟らせていない。
まるでそれが日常のことであるかのように、
この世界にはまだまだ高みがある。
これはかつて高校時代全国でも指折りの空手の実力者だった自分だからこそわかる。その体育教師はそう思っていた。
そう思っていた矢先に「ちょっと失礼、通りますよ」
後ろを取られていた。
それは黒塗りの服を着た、どこかの執事のようにもSPのようにも見える女性だった。
その時この体育教師は考えた。
(ちょっと待て今日だけで私は何回後ろを取られた?)
それはこの体育教師にはあまりにも致命的な事実だった。
男は人知れず崩れ落ちた。
あとがき:皆さんこんにちは
目玉焼きです
今回は文化祭回第一話です
今回は主人公である室隅よりもその周りの人間関係にスポットを当ててみました
その関係で場面転換がやたらと多かったですが読みにくくなっていないでしょうか、心配です
さて次回『デート?』
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