第5話文化祭って不真面目な奴がいるとつまんないよね

前回までのあらすじ

民主主義しました。


室隅達が出展内容を決めた数分後・職員室からほど近い部屋:

そこは、存在自体は学校の関係者なら生徒も含め皆が知っていながら、

しかしその内部の構造は一部の人間しか知らない、

そういう類の部屋の一つだった。

そこに今、五十嵐 八目はいる。

部屋の中は暗く中にどれだけの人間がいるのかは部屋の中にいる五十嵐にすら分からない。

相手の表情も分からず、ただ声のみが聞こえる。

今その声の一つが発言をした。

「漫画研究部の出店を許可しろとは正気かね?」それは威厳にあふれた声であった。

「バカな二年前の災厄あれを繰り返す気かね。そんなことは断じて認められん」別の声がそう言った。それは先ほどの声より少し覇気にあふれた声だった。

その声達に対して五十嵐は言う。

「認めていただかねば二年前よりも多くの犠牲者が出ます。また『計画プラン』にも少なくない悪影響が生じます」

それに対して覇気のある声は「そもそも私は生徒に負荷のかかるあのには反対なのだ!実際にに組み込まれた生徒の一人がいじめにあったと言うではないか。君のクラスで起こったことだ。知らないとは言わせないぞ五十嵐君?」と返した。

これに対して五十嵐は苦々にがにがし気な表情を浮かべながら

「その生徒については既にこちらでケアをし、現在は無事に学校に通えています。またその生徒も漫画研究部の活動に参加しております。どうかご再考を」

その返答に対して今度は別の声が応じる。

それは声の高さから言って妙齢の女性のような印象を与えた。

とおっしゃいましたがその根拠は何でしょうか?」

その声に周りからも賛同の声があがった

それに五十嵐が「黒金と火鳥。その両名です。実際に既に片方はクラスの出展内容を決めるためにその勢力を動かした形跡が確認されました。脅威を知らないとはおっしゃらないでください。そもそもこの会合自体二人の対策のためにつくられ、『計画』もその脅威を前提として策定されているのですから」と返した。

その返答に覇気のある声が「バカな、まさか貴様それを知っていて見過ごしたのではあるまいな」と責めた。

五十嵐は「いいえ。確認がされたときには既に出し物はホームルームで決まった後でした」と悪びれもせずに応えた。

覇気のある声はまだ何か言いたそうだったがそれを威厳のある声が上書きする形で制した。

「そこまでは理解しわかった。それで五十嵐君。なぜ二年前より犠牲者が増えると考えているのか、そこを聞かせてもらおうか」

五十嵐は「はい、理由としましては部活の出店をやらなかった場合。文化祭の二日間、件の少年と黒金・火鳥との接触時間が増加します。また両名はもう片方を排除するために何らかの策を講じる可能性があり、それに周りが巻き込まれる可能性があります。当日は一般の来客もあり、何が起きるか予測のできない中で不特定多数の人間が行動することになります。結果どうなるかは火を見るよりも明らかかと。またこれはあくまで補足ですが、漫画研究部の方ですが二年前の当事者たちはほとんどが引退しているため問題はないものと考えます(まぁ北口ちゃんは参加するらしいけど)」と回答した。

周囲がざわめく

「ならば今年は一般公開を中止すべきか?」

「憶測に過ぎない段階でか?正気か?」

「ではどうするのだ!」

「それを考えるためにこうして集まっているのだろう」

このざわめきの中である一つの若い声が五十嵐に質問する

「五十嵐先生。あなたの『計画』であればその犠牲を最小限にできるのですか?」

それに対して五十嵐は確信を持って答える

「はい」

若い声は重ねて質問する

「その根拠は?」

「まず漫画研究部で出し物をすることで件の少年の時間の一部をそこに割かせることができます。こればかりは彼女たちにもどうにもできないでしょう。彼女たちの今までの行動パターンを考えるとあの少年の思い出に直結することには手を出してこない可能性が高いです。なにせいじめの一件が未だに彼らの間で尾を引いている。これ以上のリスクは彼女たちも負いたくはないでしょう。そして時間を割かせることで単純に少女たちの潰しあいの時間も減ると予測されます。よって犠牲者の数を最小限に抑えられると考えております」

その返答に先ほどの妙齢の女性が質問する。

「それでは犠牲はゼロにならないのですか?」

五十嵐は即答する。

「はい。そもそも彼女らがいる以上犠牲は出ます。そのうえでそれを最小限にするための『計画』です。ご存じでしょう?」

何処かの声がこうつぶやいた。

「件の少年 と二人の少女の恋に干渉することで二人の少女の勢力の力の向きを制御する『計画』か。だから私は反対したのだ」

こうして議論は過熱していく、とりあえず漫画研究部の出店は許可された。


文化祭前々日:

学校全体が今週末に始まる文化祭の準備で盛り上がっていた。

廊下にはどこのクラスのものか分からない荷物であふれかえり、

壁にはどこもクラスや部活の宣伝のためのポスターでいっぱいだった。

まさに学校全体が文化祭ムードに包まれていた。

そうすると当然出てくるのは、


「なぁ聞いたか?四組の大林もりが三組の殻羽超がらぱごすに告白したらしいぜぇ」


「えぇ!!ミナミ、二組の道意どい君から告白されたの?」


そう告白ラッシュである。

知らない人もいるかもしれないので説明しよう。


告白ラッシュとは文化祭や夏休み、クリスマスなどの行事ごとの前にカップル未満の男女が告白することが特に多いシーズンの俗称である(諸説あり)。


つまり私には関係の無い話である。

そんなことを考えながら私、室隅へやすみわたるは教室に向かう。

忘れている人も多いかもしれないがこれは私が主人公の物語である。


・・・何を私は言っているのだろう。今度病院にでも行くべきかもしれない。

そうしていると私は教室についた。

すると何やら中央で人だかりが出来ている。

その人だかりの中には私の友人である馬飼うまかいひろし君もいた。

ゆっくりと近づき何が起こっているのか聞こうとすると答えはすぐに分かった。


「それじゃあ、誰が買出しに行きたいかを決めたいと思いまぁす」

どうやら買出し担当を決めるようだ。

どうせ自分たちの担当箇所では足りないものはないから大丈夫だと思っていたら馬飼君に「室隅氏ちょっと買出しに行ってきてくれないでござるか?どういうわけか我々が担当していた男子の衣装に使う生地がどうも足りないんでござるよ」と言われた。

そういうわけで私も買出し班に名乗りを上げることに、そして私たちは学校の外、街に繰り出した。


「連絡通りお嬢が出てきた。例の少年と一緒だ」街のどこかでそのような会話が行われた。


「作戦通りお嬢様が出てきた。件の少年と一緒だ」街のどこかでそのような連絡があった。


こうして少年の考えとは裏腹に二人の少女とその勢力の静かな闘争が始まる。


私、室隅 渡は今文化祭の出し物で使う衣装を買いに一人で来ているはずなのだが。

「よ、よう渡。君もこっちなんだな。き、奇遇だなぁ。ハハハ」

「室隅さんは何を買いに来たんですか?よろしければご一緒しませんか?」

 どうしてこうなった。

どういうわけか自分の両隣に女子も二人。

そしてどういうわけか二人と一緒に来ていた彼女の友人たちは別行動。

両手に花?それは仲の良い相手に対して使う言葉だ。

決して顔見知り程度の相手達に使う言葉ではない。

彼女たちにも失礼だろう。

というか二人とも距離が近い。

私がもう少し顔を近づければ、どちらかの鼻に触れてしまいそうな距離である。

これでは周りにも勘違いされてしまうだろう。

現に今通りがかった同じ制服の男子たちはすれ違いざまに私に舌打ちをしていた。

「あ、あのぉ出来ればもう少し離れていただけるとお互い歩きやすいと思うのですが」周りの視線に耐えきれずに思わずそう言ってしまった。

「渡は」「室隅さんは」「「歩きづらいの(ですか)?」」

二人は息ぴったりにそう言った。

なぜか『そうです』とは言ってはいけない気がして、

つい「いえ、そういうわけでは」と言ってしまった。

二人はそれを聞き微笑むと「じゃあ(それでは)いいじゃない(ですか)」そう言った。

そのままショッピングモールに着くと私はすぐに気まずくなって、トイレに駆け込んだ。


それまでの間ずっと心臓がドキドキしっぱなしだったことをここにご報告させていただく。


ショッピングモール一階:

室隅がトイレに駆け込んだことを確認すると二人の少女は、


バチボコににらみ合っていた。

まるで不良同士がメンチをきるかのような光景がそこで展開されていた。

「てめぇ何邪魔してんだよ」

「そっちこそ邪魔しないでくれる?」

普段の彼女たちを知るものならば思わず二度見したあとに人違いだと思ってしまうような、そんな異様なやりとりが繰り広げられていた。

「大体、渡達の衣服の材料隠したのお前らだろ?昔っから手口が汚いよなぁ」

「そっちこそ、室隅君に近づきすぎよ。彼歩きずらそうだったじゃない。昔から気が使えないわよね」

「んだと?それはてめぇもだろ?」

「なによ?ヤろうっての?」


空気が完璧に冷え切ったショッピングモールの二階:

「((室隅君早く戻ってきてぇ~))」

そんなことを考えていたのは二人の少女の側近達だった。

両者とも命令があれば即座に相手勢力との戦闘状態に移行できるように準備はしているがそれでも本人たちは戦うのは本意ではない。

それは互いの実力を認めているが故だ。

両者とも、かつてその主が幼いころに一度ヤりあったことがあった。

そのときの勝負は正午から夕方まで続き結局引き分けで終わった。

両者ともその時のことを思い出し苦笑する。

((あの時はお嬢様方が門限だったから終わった。しかし今回はその時間も伸び、しかも相手も強くなっている。これはかなりまずい状況だぞ))

両者が自らの死を考慮に入れたその時「あれ、お二人ともどうかしたんですか?」

室隅君がトイレから出てきた。

((助かったぁ~~~))

二人の側近達は同時にそう思った。

おそらくあと数分遅ければ大変なことになっていただろうと考え、そうならなかったことに素直に安堵する。

二人はその経験上自らの主が室隅少年がいる前では直接的なことは何もしないことを知っている。

なぜなら室隅少年に集中して、彼女たちの側に側近にまで指示を飛ばす余裕が無くなるからである。

しかしこれで終わるわけがない。静かなる闘争はなおも進行する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る