第二章血に染まる文化祭編
第4話そういや文化って何だろう
「文化祭?あぁ~もうそんな時期かぁ~」クラスの誰かがそう言った。
室隅の学校では週に一度、授業一時間分を使って行われる長いホームルームがある。
今はちょうどその時間だ。
今日は来月末に行われる文化祭の出し物について話し合うことになった。
「とりあえず何をやりたいか各自で話し合ってください」学級委員がそう言うと皆各々のグループに分かれて話し始めた。
私、
「文化祭、何やろっか?」そういったのはアズマさんだ。
とても楽しそうに見える。
「ただ
「でもどっちも楽しみたいじゃん」アズマさんはそう言って少し不満そうな表情を浮かべた。
「とりあえず何やりたいか話さない?そこから皆の意見をすり合わせる感じでさ」
このままだと平行線になって決まらない。
なぜならどちらの言うことも正しいからである。
そう思っての私の発言だ。
「確かに」「そうでござるな」
どうやら二人とも納得してくれたようだ。
その後私たちのグループの意見は文化祭といえばの『メイド喫茶』となった。
まぁ、これが選ばれる可能性は相当厳しいだろう。
クラスの出し物が多数決で決まるという原則がある以上、
クラスで一番発言力のある黒金さんや学級委員の意見が優先されるからだ。
そう思ったのだがクラスでの出し物は私たちの意見が採用されることになった。
学級委員の二人は何も案を出さず、
黒金さんのグループは私たちのグループの意見に賛成したからだ。
他に気になるのは何故五十嵐先生は笑いをこらえていたのだろう?ということぐらいか。
皆にはわからないようだったが、
放課後・学校の裏側の通路:
そこは普段なら、せいぜい運動部がランニング目的でしか寄り付かないようなところだが、今は大きな人だかりが出来ていた。
人の集団は大きく分けて二つに分けられる。
一つはとあるクラスの学級委員の男子が一人。
その男は落ち着きなく辺りを見たり、自分の髪の毛をいじってたりしていた。
それと向き合っているもう一つは様々なクラス、様々な学年の男女で構成された集団。
学級委員の男はうろたえた様子でその集団の中心人物に叫ぶ。
それは上手くろれつが回っていなかったので、間抜けな印象を与えた。
「本当にこれでよろしかったんですよねぇ?」
それを言われた集団の中心人物である黒金 英利は相手の男に興味もなさそうにしながら、目を合わせることもせずに気だるげに返事をする。
「えぇ、約束通り室隅君の案を採用させるように動いてくれたから、あなたが女性教員と密会をしていた証拠はあげるわよ」
そういって彼女は紙袋を放り投げた。
地面に落ちたそれを学級委員の男は必死の形相で拾う。
そこには普段の落ち着いた学級委員の姿はなかった。
服が汚れるのも気にせず、日頃異性を魅了していた優しげな表情もそこにはない。
ただただ必死だった。
紙袋の中身は彼が教科担任の女性と密会している写真だった。
この学級委員の男は自分のクラスを受け持っている女性教師の幾人かと交際をし、
その代わりに様々な便宜をはかってもらっていた。
そのことを理解していながら、その情報を得た集団の長の少女は聞いた。
「それがそんなに大事?既に
同時にその数は彼女の命令に忠実に従う存在の数でもある。
一学年ではない。全学年の全生徒の三分の一だ。
学級委員の男はろくに返事ができない。
「まぁいいわそれじゃあね」そう言ってその集団の女王は去っていく。
もとより相手の男には毛ほどの興味もない。
室隅の案を採用させるのに手っ取り早い方法が脅迫だっただけで学級委員と女性教師達との密会なぞどうでもいい。
ただ。
「男って皆あんな風に年上の女性が好きなの?」
そこは気になるところではある。
もしかしたら自分は彼の好みでは無いのではないか。
そう考えると急に少女の背筋が冷えてきた。
その気になれば一人の学生を狂わせられる集団の主は一人の少女のようにただ怯えていた。
「あの
そう答えるのは少女の執事である内藤の娘だ。
その娘は自分の周りを見まわしこうも聞く。
「しかしこれだけの力があればいかようにも出来ますのに、なぜこのような回りくどい方法を?」
こんなことをせずとも室隅に交際を迫る方法など内藤(娘)には星の数ほど思いつく。
何故そうしないのか。
そう聞いたつもりだった。
彼女の母からすれば「そんなことをわざわざ聞くな」そう咎められる質問を。
結果にらまれた。
その後に恥ずかしそうな顔をして、恋するお嬢様は言う。
「決まってるじゃない。強引に迫る方法はいくらでもあるけど、それじゃ意味がない。私が欲しいのはあの時、ありのままの私を見てくれた室隅渡よ?そこが変わってたら意味がないし、価値もない」
何を当たり前のことをそんな返しをされ内藤はただ平伏した。
その周辺・校舎内:
「おぉ~怖い怖い。実力で票操作とか民主主義に真っ向から立ち向かいすぎでしょ」
そう言ったのは紺の髪をポニーテール状にした
彼は今双眼鏡を使い、人知れずこれまでの一部始終を観察していた。
しかし
なぜならそんなことはする必要がなく、またすでにどうにもできないからである。
現実がどうであれ
何より、今のところ結果に困りそうな奴がいない。
多数決の結果が決まった時皆が楽しそうにしていた。
であればそれでいい。
男はそう考えていた。
何より(今から変更したらどうなるか予測ができないし)建前を抜きにすればこれが真意である。
おそらく自分の望む結果を得るまで何度でも同じことをするだろう。
それに対応している時間も労力も惜しい。
ただし、(このままでは終わらないよ)。
ここまでされてもなおこの男は自らの行動を改めることはしない。
「我々漫画研究部でも文化祭で何か出し物をしよう」
五十嵐先生は部室に来るなり、部員たちの前でそういった。
「それはいいでござるが、具体的な案などはおありでござるか五十嵐氏?」
そう言ったのは馬飼君だ。
先生に対しても彼はいつもの口調でそう言った。
・・・いや、五十嵐先生の前だからか?
五十嵐先生は手元にある過去の資料を見ながら馬飼くんの言葉に気にしたような様子もなく言う。
「例年だと、皆で同人誌作ってるね(もちろん全年齢向け)。ちなみにこれはそのサンプル、安心して全年齢向けだから」
そういって先生が差しだしてきた物を皆で見てみた。内容は何というか。その。
「これ、本当に全年齢向けですか?」読んでいる途中に思わずアズマさんがそういった通り、これはヤバイ、何がというのはこの作品とんでもないグロ描写があった。二、三ページに一コマは誰かが血を流している。
他にも
とてもではないが高校の文化祭で売っていいものだとは思えない。
「これ書いた人どうかしてますよ」馬飼君の言っていること。
それがすべてを言い表していた。
「悪かったな」瞬間その場にいた五十嵐先生を除くすべての部員が声の方を見て身構た。
一切気配を感じなかった。
その声の主は
「「北口先輩!?」」
予想外の人物の登場に思わず私と馬飼君の二人で同時にそう言ってしまった。
その御方はもう公式的には引退したはずの、しかし今でもちょくちょく遊びに来る先輩だった。
その先輩がどうしてここに?
その疑問はすぐに五十嵐先生の言葉で解消された。
「私が呼んだんだよ、去年はうちの部活出店できなかったからね。経験のある人に来てもらったの。まぁその原因は彼女達なんだけどね」
確かにうちの部活は去年文化祭の出店が許可されなかった。
しかしその理由が言われなかった。
だから思わず聞いてしまう。
「その理由って何ですか?」
五十嵐先生はさっきまで私たちが読みしかし途中で断念した同人誌を手に取り言う。
「これだよ。二年前にこれとか他の同人誌を文化祭で売ったの」
それを聞いて私たちは納得した。
確かにこれを売ったら問題になるし、翌年の出店もできないだろう。
そう思っていたら
「言っとくけどこれはまだ序の口だよ。当日はもっとやばいのもあったし」そんな特大の爆弾発言を投げ込まれて一瞬思考が停止した。
今、なんて言った?これが序の口?この放送禁止用語と差別発言とグロ描写の塊が序の口?
五十嵐先生はそんな私たちの思考を察したのかこう言ってくる。
「そう、これが序の口。言ったでしょ?全年齢向けって。要はこれを全年齢向けと言わしめるだけの作品も売られてたんだよ。実際に。二年前に。見てみる?おすすめはしないけど」
ある種の怖いもの見たさで私は頷く。
どれだけ言っていても結局は高校の文化祭で売られていたものだ。
それほどではないだろう。
そう思い読んでみた。
甘かった。
そこに書かれていたのは何というかここでは表せないものだった。
あるものはグロくあるものは・・・
とにかく表現のしがたい、というか表現してはいけない同人誌が三冊分
おそらく未就学児の子供に読ませればそれだけで自我を歪められるものが三冊分
そこに存在していた。
そこでようやく先生の言っていた意味が理解できた。
これは売ってはいけないんじゃない。
存在すら許されないものだ。
これを同じ高校生が作成したというのが信じられない。
というかそのとき
一応あんた顧問だろ。
検閲しろ。検閲
「な?分かっただろ?去年出店できなかった理由が。なにせ去年までこれを作ったやつの一部がこの部活にいたんだから。罰として去年出店できなかったんじゃない。再発を恐れていたのさお偉いさんたちが」
同人誌を読んだ私に五十嵐先生はそう笑いながら話しかけてきた。
確かにこれなら納得だ。理由を説明できなかったのも理解できる。
なぜなら理由の説明にはこれを見せる必要があるからだ。
去年の自分たちなら耐えられなかっただろう。
しかし「じゃあなんで今見せてくれたんですか?」
この同人誌の危険性は年を経れば薄まるものではない。
なのになぜ、そう思ったら
「そりゃ北口ちゃんが『今年のあいつらなら耐えられる』って言ったからだよ」
あっさりとそう言われた。
そのあとに「まぁとにかくこのレベルの同人誌を書かなければオーケーだからそういうわけで後の詳しいことは北口ちゃんに聞いて、それじゃあ私は職員室に戻ってるからなんかあったら呼びに来て、帰り戸締りよろしくねぇ」そう言って砂場より低いハードルを残して出ていった。
こうして私たちの文化祭は始まった。
来月末ではないのかって?
文化祭は準備からもう文化祭なのさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます